2022年韓国
118分

 韓国で大ヒット、数々の賞を受賞した映画。
 たしかに、17世紀李氏朝鮮時代の宮廷サスペンスドラマとして面白いのだが、そこまで人気を博し評価が高いのには、ちと解せないものがある。
 なんでだろう?
 ――と思ったら、これは朝鮮人ならだれでも知っている史実を基にした物語だったのである。

 李朝第16代国王仁祖(インジョ、1595-1649)は、明王朝を倒し新しく起こった清王朝に屈辱的な従属を強いられていた。仁祖の息子の昭顕世子(ソヒョンセジャ)は人質として清に取られていた。
 1645年、人質を解かれて帰国した世子は、清王朝の進んだ文明を朝鮮に取り入れようとはかり、仁祖と対立する。
 2か月後、世子は謎の死を遂げる。
 全身が黒く変色し、目・耳・鼻・口など7つの穴から血を流していた凄まじい死にざまは、何者かに毒を盛られたとしか思えなかった。

 史書である『仁祖実録』に記されたこの怪死事件、父王によるものではないかという説が根強くあるらしい。
 王位を死守するために息子を毒殺する父親。
 この歴史の闇に埋もれた禁断の謎が、今もなお韓国の人々の関心を引き付けて止まないのだろう。
 我が国で言えば、豊臣秀吉と、その甥っ子で子供のできなかった秀吉の養子となった豊臣秀次との関係のようなものだろうか。
 秀次の死もまた、茶茶(淀君)との間に待ちに待った実子秀頼ができた秀吉が、秀頼を後継とするために、秀次に謀反の罪を着せて死に追いやったという説が濃厚である。
 権力を手にした者が、親族を含め周囲を信用できなくなり、狂気の振る舞いに及ぶようになることは、どこの国でも同じである。

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京都瑞泉寺にある豊臣秀次の墓

 本作では、盲目の鍼医ギョンス(演:リュ・ジュンヨル)という架空のキャラクターを創造し、鍼の腕を買われ宮廷に使えることになったギョンスの“目を通して”、世子怪死事件の謎に迫っている。
 事件の目撃者が盲目である(実はフクロウのように昼は見えないが闇の中では目がきく)ところが一つのポイントである。
 これは、「権力を持たない者が面倒ごとに巻き込まれないためには、上に立つ人間の不正を見ても、“見ないふり、聞こえないふり”をして口を噤んでいなければいけない」という自己保身の比喩となっているのだ。
 権力の亡者どもの毒々しい謀略にはからずも巻き込まれ、あまつさえ世子殺害の濡れ衣を着せられてしまったギョンスは、もはや見えないふりをしているわけにはいかない。どうやってピンチを切り抜け、真相を暴いていくか。
 15世紀の朝鮮王宮を舞台とした『王様の事件手帖』同様、絢爛豪華のコスチュームプレイとしての見ごたえと、二重三重の底が仕込まれたミステリーサスペンスとしての面白さ、そして、権力の恐ろしさと愚かさという、いつの時代どこの国にも通じる人間の無明テーマ。
 韓国娯楽映画のレベルの高さは健在である。
 ただ、勧善懲悪のご都合主義に終わったラストについては、評価が分かれるところだろう。
 主役を演じたリ・ジョンヨルは、藤原道長もとい柄本佑に似ている。

フクロウ



おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損