1998年フランス
93分

美しき仕事

 フランスでの公開から26年を経た、本年5月に日本劇場初公開。
 原案がハーマン・メルヴィル作『ビリー・バッド』という世界的文学であるにもかかわらず、これほど待たされたのはそれなりの理由あってのことだろう、と気になっていた。

 公開が遅れた理由の一つは、一見、わけのわからない退屈な映画だからだろう。
 わかりやすいストーリーがなく、セリフも少なく、説明もない。
 ドラマチックとは真逆で、エンターテインメント性に欠いている。
 アフリカのどこかの海岸で訓練するフランス軍の小隊の日常が、最初から最後までたんたんと描かれるのみ。
 鍛えられた若い男たちの躍動する肉体、規律と命令にしたがう軍組織の簡潔さがひたすら強調される画面は、新兵をリクルートするために作成されたミリタリー広報ビデオ、あるいはゲイ向けのイメージビデオみたいな印象。
 『ビリー・バッド』は英国軍艦が舞台だったが、本作ではアフリカ蛮地に駐在するフランス外人部隊に置き換えられている。
 また、主要人物2人がたどる運命も変えられている。

 ソルティは事前に『ビリー・バッド』を読んで、そこに寄せられた研究者らの様々な解釈のなかに同性愛的解釈あるのを知っていたので、クレール・ドゥニが描こうとしたのもそこだろうと見当がついた。
 本作は、自然の中における男の肉体の美しさを掬い取ったブルース・ウェバー風フィルムであると同時に、軍隊というホモソーシャルな社会の中で極度に抑圧されたホモセクシャリティを描いた映画である。
 肯定できないがゆえに屈折した同性への愛が、嫉妬や憎しみに転じていくさまが痛々しいまでに描き出されている。

 BL当事者でもなくBL趣味もない鑑賞者(とくにヘテロ男子)にしてみれば、なにがなんだかわからないだろう。(ま、途中で居眠りすると思う)
 98年の日本では、これを理解し咀嚼できる観客も映画関係者も少なかったであろう。
 ようやく時代が作品に追いついたのである。   

 青い海と砂浜とホモセクシュアルの匂いのせいか、ソルティは『ベニスに死す』を想起した。美しい男を執拗に目で追う主人公のガルー(演:ドニ・ラバン)が、ダーク・ボガード演じるグスタフ・アッシェンバッハに重なった。
 また、軍組織におけるホモセクシャリティというテーマに、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』を連想した。

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 本作は、洋画の名作を中心にリバイバル上映している早稲田松竹で鑑賞した。
 JR高田馬場駅から歩いて5分。
 この映画館に行ったのは実に30数年ぶり。
 昭和時代の映画館とくに名画座が次々と消えていく中で、都会のど真ん中にあって今も続いているのが奇跡のよう。
 シニア料金や学割が利用できるようになったソルティ、今後はちょこちょこ利用しようかな。

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鑑賞後は通りを挟んだ「末廣ラーメン本舗」へ

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こってり醬油スープ、とろけるチャーシュー、昔ながらの中太ストレート麺
薬味のネギは入れ放題。全体のバランスよく、美味かった(900円)



 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損