1959年松竹
第3部102分、第4部75分
原作 五味川純平
脚本 松山善三、小林正樹、稲垣公一
音楽 木下忠司
撮影 宮島義勇
第2部の終わりで軍部に睨まれた梶(仲代達矢)は、召集免除の約束を反故にされ、戦地に飛ばされる。
第3~4部は、ソ連との国境近い北満州の駐屯地での軍隊生活、および日ソ中立条約を破って満州に侵攻してきたソ連軍との戦闘の様子が描かれる。
昭和19~20年、日本の敗北が色濃くなってきた頃合である。
大島渚監督『戦場のメリークリスマス』、大西巨人原作『神聖喜劇』、勝新太郎×田村高廣共演『兵隊やくざ』、あるいは水木しげる作画による『ラバウル戦記』をはじめとする一連の戦記コミックに見るように、日本の軍隊内部の暴力はまことに酷いものであった。
他国とくらべられるほどの情報は持っていないので断定はできないが、太平洋戦争時の日米両軍の軍隊を内側から描いたクリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』、『父親たちの星条旗』を観ても、日本の軍隊の残虐ぶりは勝っているように思われる。
一人前の兵隊を育てるため厳しい訓練で心身を鍛える、と言えば聞こえはいいが、今すぐにでも戦闘が始まる可能性ある中で、戦士として使い物にならなくなるほど、蹴って殴って負傷させたり、行軍によって疲弊させたり、虐めによって精神を破壊したりすることに、どれほどの合理性があるのだろう?
この合理性の欠如は、戦後も日本の学校の部活動や体育会などに「しごき」という伝統として残り、「百害あって一利なし」のうさぎ跳び100回とか、炎天下でも運動中は水分を取らせないとか、先輩に口答えしたら校庭10周とか、科学的根拠を欠くトレーニングがまかり通っていたのである。
ほんとに。青春を返せ!
第3部では、厳しい訓練や上官からのたび重なる虐めに耐えきれなくなった小原二等兵が、兵舎の便所の中で小銃自殺を遂げる。
戦況悪化の中、なにより大切にすべき兵士(天皇陛下の赤子)を自らの手で殺す軍の倒錯。
日本が負けたのも仕方ないと思う。
この難役をなんと『北の国から』の五郎さんこと田中邦衛が演じている。
戦地に来てまで母親と嫁の不和に悩まされる心身ともに軟弱な男を、観ていて目をそむけたくなるほどの哀れさで好演している。
戦地に来てまで母親と嫁の不和に悩まされる心身ともに軟弱な男を、観ていて目をそむけたくなるほどの哀れさで好演している。
お人好しの五郎さん、『若大将』シリーズの青大将、『網走番外地シリーズ』の舎弟、『仁義なき戦いシリーズ』のチンピラ、そして気の弱いうらなり兵士、硬派から軟派まで、実に芸達者であった。
ソルティは今でも暮れが近づくと、田中邦衛がはじけまくった大正漢方胃腸薬のテレビCMを思い出さずにはいない。
「食べる前に、飲むゥ!」
第4部では、国境の大平原にソ連軍の戦車が横一列に並び、圧倒的な戦力でもって、日本軍を壊滅に追いやる。
死の恐怖から、自暴自棄になって蛸壺(個人用の塹壕)から飛び出して自ら銃口に身をさらす者、泣き出す者、発狂する者、まさに生き地獄が展開される。
赤紙一枚で駆り出された国民が、こんなふうに犬死している間、タマが飛んでくる恐れもない内地の議事堂では、戦争を続けるかどうかの不毛な水掛け論が延々と続いていた。
国民は野垂れ死に、巨悪は生き残る。
それが戦争の真実だ。
愛国心とか国体護持とか国防といった全体主義的な言葉にダマされてはいけない。
戦闘シーンの撮影は、中国でのロケは不可能だったため、北海道サロベツ原野周辺で行われたという。
陸上自衛隊の協力により、自衛隊演習地内での撮影が許可され、実銃や戦車が貸し出された。
明らかな反戦映画であるにもかかわらず!
1959(昭和34年)とはそういう時代だったのだ。
令和6年現在、反戦映画の撮影に対して、同じような協力が自衛隊から得られるだろうか?
あと、鬼の看護婦長を演じる原泉。
お婆さん以外の役を初めて観た。
お婆さん以外の役を初めて観た。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損