勉強開始から正味20日。
『平安文学論』のレポートが完成し、大学に送った。
Wordで原稿を書いてメール添付で瞬時に送れるのは、楽だし、お金もかからないし、コピーしなくてよいので助かる。
もちろん、手書き原稿を郵便で送ってもかまわないのだが、郵便局やポストが身近にある受講生ばかりとは限らないし、障害のある人だっているだろうから、メール送付方式は良いことだ。
ソルティが一回目の大学生だった頃には想像もつかなかった進歩。
レポートの課題そのもの――平安貴族の男女関係に見られる「正妻、妾、召人(めしうど)、行きずり」のそれぞれについて定義せよ云々――は、大学から送られてきたテキスト『平安朝の結婚制度と文学』(工藤重矩著)とサブテキストの『学習指導書』を読み込み、いくつかの参考文献を渉猟して、それほど苦労せず作文できた。
が、3200字プラスマイナス1割(2980~3520字)という字数制限を守るのがなかなか大変だった。
が、3200字プラスマイナス1割(2980~3520字)という字数制限を守るのがなかなか大変だった。
「原稿用紙8枚くらいすぐ埋まる、むしろ下手するとオーバーするぜ」
と思って書き始めたものの、見出し、図表、引用文、参考文献、改行や段落変えの際の空きマスを含めないで、つまり自分の作り上げる地の文だけで3200字というのは結構な労力であった。
と思って書き始めたものの、見出し、図表、引用文、参考文献、改行や段落変えの際の空きマスを含めないで、つまり自分の作り上げる地の文だけで3200字というのは結構な労力であった。
Wordには字数を自動的にカウントしてくれる便利な機能がついているが、なかなか下限の2980字に達しなくて、字数を増やすのに苦慮した。
科目によっては6400字を要求されるものもある。
今から戦々恐々としている。
NHK大河ドラマ『光る君へ』ファンのソルティ、興味ある分野だったこともあって勉強は楽しかった。
「平安時代は一夫多妻制だった」とよく言われ、『源氏物語』や『蜻蛉日記』なんかを読んで「なるほど、その通りだ」と常々思っていたけれど、その実態は「一夫一妻多妾制」だったというのが、昨今その筋の間で共通見解になりつつある。
女性史学のパイオニアと言われる高群逸枝(1894-1964)の「平安時代は一夫多妻の招婿婚で、妻たちの間に格差はなかった」という説がこれまで強く学界を支配してきたところに、藤原道長と二人の妻(倫子と明子)の間にできた息子たちの叙任・昇進、および娘たちの嫁ぎ先の格差を綿密に調べ上げて、「いや、妻たちの間には歴然たる格差があった」と立証したのが梅村恵子、そして、法令(当時は養老律令)の観点から「重婚は禁止されていた」と一夫多妻説を正面きって否定したのが本講義のテキストを書いた工藤重矩だったのである。
言ってみれば、工藤はこれまでの通説を打ち破るような画期的な研究をした人で、まさに「一夫一妻 or 一夫多妻?」議論に火をつけた渦中の人。
いや、奈良大学の教授選定の素晴らしさを知って学習意欲が増した。
この問題が重要なのは、男女関係を「一夫一妻(多妾)」と見るか「一夫多妻」と見るかで、『源氏物語』や『蜻蛉日記』などの平安文学の解釈に大きな違いが生じてくるからである。
登場人物の女性が、「わたしは光源氏サマの正妻の一人だ」と思っているのと、「わたしは光源氏サマの妾の一人にすぎない」と思っているのとでは、読み方やキャラの印象が異なってくるのは言うまでもなかろう。
現実社会においても、藤原道長(『光る君へ』では柄本佑演ず)の主要な妻である倫子と明子には無視できない格差があり、正妻は倫子(黒木華)で、明子(瀧内公美)は妾であった。
そこをちゃんと踏まえてドラマを見ると、明子やその子供たちの鬱憤や懊悩が理解できるし、役者の演技をより深く楽しむことができる。(明子の息子の一人は世をはかなんで出家した)
それにつけても面白いのは、研究者たちがつくる学界という不思議な世界である。
実社会からすれば実にトリビアなことで議論白熱して牽制し合っているさまもおかしいが、これまで通説とされてきたものが引っくり返るプロセスというかダイナミズムが、ちょっと内幕を知ると面白い。
女性史学界の権威で平塚らいてうと並ぶ女性運動家であった高群逸枝が、自説に都合の悪い事例を隠していたとか、工藤が「一夫一妻説」という石を投じた際に起こった斯界の反応(黙殺も含めて)とか、複雑怪奇な学界のありようを垣間見させてもらった。
これもまたひとつの社会勉強である(笑)。
そこで約40年ぶりに母校の図書館に行った。
卒業生は身分証明すれば1日100円で利用できる制度があった。
現役中はあまりいい勉学の徒ではなくて、講義の間に昼寝する場所として図書館の静寂を利用していたことが多かった。
しかるに、今回久々に訪れて驚嘆したのだが、蔵書の豊かさには凄いものがある。
もちろん、探していた資料も即座に見つけることができた。
コンセント付きの閲覧席やWi-Fiなんかも備わっていて、勉強する人間にとっては至れり尽くせりの環境なのであった。
お腹が空いたら、安くておいしい学食がある。
キャンパスのあちこちに立つ看板には、外部の人間も参加できる興味深い講座や催し物の案内がある。
なんという贅沢な空間だろう!
踏みつぶされた銀杏の匂いが立ち込める静かなキャンパスを現役学生に混じって歩いていたら、幸福な気分に満ちた。(いや、自分も現役学生だった)
自分はなんと4年間を無駄に過ごしたことか!
でも、還暦にして学生生活の“本分”を取り戻せるのはうれしいことである。
レポートの結果は約1か月後に判明する。
(ここまでで2171字。ブログだとあっという間に字数が稼げるのだけど・・・・)