最近、野口五郎をよく聴く。
 手元にあるのは、CD『野口五郎ゴールデンベスト』。
 演歌路線のデビュー曲『博多みれん』が全然売れず、ポップス路線に変更した2曲目『青いリンゴ』で火がついたことは、1970~80年代の黄金期の歌謡曲ファンなら、誰もが知るところ。(そうでもない?)
 その後、遅れてデビューした郷ひろみ、西城秀樹とともに"新御三家”として一世を風靡した。

野口五郎ゴールデンベスト

 本CDには、1971年『青いリンゴ』から1983年の『19時の街』までの12年間に発売された曲の中から、19曲が選ばれている。
 ほぼソルティの10代と重なる。
 ソルティは、毎月『明星』と『平凡』のどっちを買うか書店の棚の前で悩むような歌謡曲大好き少年だった。

 当時から野口五郎の歌唱力は高く評価されていて、御三家の中では一頭地抜いていた。(その代わり、ひろみと秀樹のファンたちは五郎の足の短さを指摘し、シークレットブーツを履いているんじゃないかと噂した)
 ほかの二人と比べると、演歌出身のせいか地味なイメージがあり、歌もまた大人っぽくて、舞台衣装もスーツが多かった気がする。
 ひろみや秀樹のほうが目立っていた。(80年代半ばにコロッケがモノマネするまでは)
 
 いま聴きなおしてみると、歌の上手さや若い声の色気はいうまでもないが、楽曲の良さにしびれる。
 とくに、下記の曲は昭和歌謡の名曲と思う。

 『君が美しすぎて』 (詩・千家和也/曲・馬飼野俊一)
 『甘い生活』 (詩・山上路夫/曲・筒美京平)
 『私鉄沿線』 (詩・山上路夫/曲・佐藤寛)
 『きらめき』 (詩・山上路夫/曲・筒美京平)
 『むさし野詩人』 (詩・松本隆/佐藤寛)
 『季節風』 (詩・有馬三恵子/筒美京平)
 『19時の街』 (詩・伊藤薫/筒美京平)

 『むさしの詩人』のサビの部分、

 20才の春ははかなくて
 生きてることは哀しい詩だ
 15行目から恋をして
 20行目で終わったよ

 20才の春は淋しくて
 手を花びらがすり抜けてゆく 
 恋を失くした人はみな
 寒い詩人になるという

 ちょっと思いつかないようなグッとくるフレーズではないか。  
 さすが、松本隆!

 当時はちっとも分からなかったのだが、野口五郎の初期の歌(とくに『甘い生活』と『私鉄沿線』)は、かぐや姫の『神田川』やガロの『学生街の喫茶店』同様、団塊の世代の青春を歌っていたのだなあ。
 つまり、内容的にはフォークソングに近く、純粋ポップスのひろみや秀樹と一線を画していたのである。

 当CDには入っていないが、作詞・藤公之介/作曲・平尾昌晃による『愛よ甦れ』も名曲である。(これはタイトルが良くなかった。なぜ、すばり『飛行船』にしなかったんだろう?)
 
 これらの名曲も野口五郎の歌唱あっての輝き。
 まぎれもなく、昭和の名歌手の一人である。