文学座女の一生

1961年1月第一生命ホール(日比谷)にて収録
1961年3月NHK放送
2005年製作
白黒、179分

作:森本薫
演出:久保田万太郎、戌井市郎

 行きつけの図書館で見つけた。
 こういった貴重な記録が残っていることに感激した。
 日本演劇史のビッグネームである杉村春子の演技は、映画では小津安二郎監督『晩春』、『東京物語』、『麦秋』の紀子3部作始め、様々な名監督の作品中に数多く残されている。
 ソルティが特に印象に残っている役は、上記3部作以外では、稲垣浩『手をつなぐ子ら』の精神障害児の母親、成瀬巳喜男『流れる』のおちゃっぴい芸者、黒澤明『わが青春に悔なし』の泥にまみれた百姓の妻、新藤兼人『午後の遺言状』の華やかなる老女優である。出番は少ないが、溝口健二『楊貴妃』の女官役もインパクトあった。
 テレビドラマにも多々出演していて、ビデオやDVD、あるいはNHKアーカイブなどで見ることができる。
 しかるに、杉村春子の本領である舞台の記録、それも実に生涯で945回も演じた代表作『女の一生』のそれがあるとは思わなかった。

 残念ながらソルティは、商業演劇にほとんど興味なくて、杉村春子の舞台を見ることはなかったので、今こうやって全盛期の彼女の芸を確かめることができるのは幸運としか言いようがない。
 と書くと、「いや、杉村春子の芸は死ぬまで高められたから、全盛期は晩年だ」という声もあろう。
 それも一理あるが、能や歌舞伎など“型”を演じるのを基本とする古典芸能とは違って、商業演劇のようなお芝居は肉体が勝負なので、脂の乗り切った時期というものがある。
 本公演は、杉村春子55歳の折りのもの。
 まさに心技体が最高度に充実した円熟の境地にあって、しかも、布引けいという一人の女性の16歳から56歳までを演じるに過不足ない社会経験も身体能力も備わっている。
 カラーでなく白黒映像であるとか、画像が粗いとか、まったく関係ない。
 第一級の文化遺産として後世に残すべき至高の芸がここにある。

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「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩き出した道ですもの」
有名なセリフのシーン

 文学座の共演陣も達者で、感服しきり。
 けいの姑役の賀原夏子の温か味ある貫禄ぶり、夫役の宮口清二の見事な引きの演技、義姉役の南美江のコミカルな味、けいの義理の叔父で狂言回し的存在の三津井健のセリフ回しの見事さ。
 長らく演じてきたゆえに演者たちの呼吸もピッタリで、観客の気を少しも逸らさない。
 市川崑監督・金田一耕助シリーズの警部役でお馴染みの加藤武(当時32歳)が、いなせな職人役で出演しているのも、本DVDの魅力である。

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「よーし、分かった!」

 しばらく前より、大竹しのぶが『女の一生』をレパートリーに入れてきた。
 今度こそ、ナマ舞台をこの目で見たいものである。




おすすめ度 :★★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損