日 時: 2024年12月25日(水)19:30~
会 場: 板橋区立文化会館大ホール
曲 目: ベートーヴェン: 交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
ソプラノ: 天羽 明惠
メゾソプラノ: 鳥木 弥生
テノール: 村上 敏明
バリトン: 近藤 圭
指 揮: 柳澤 寿男
管弦楽: World Peace Concert Orchestra
合 唱: World Peace Concert Choir
柳澤寿男について、恥ずかしながら何も知らなかった。
1971年長野県生まれ。
指揮を佐渡裕、大野和士氏らに学ぶ。
2007年、コソボフィル首席指揮者に就任。同年、旧ユーゴスラヴィアの民族共栄を願ってバルカン室内管弦楽団を設立。
2015年より、国・民族・宗教を超えた隣人との共存共栄をメッセージとする World Peace Concert を世界各地で開催。趣旨に賛同する音楽家らが、その都度、参集している。
2024年、日本とコソボとの相互理解促進の活動が評価され、「日本国外務大臣表彰」を受賞。
現在も、旧ユーゴスラヴィアを中心に活動している。
「ニューズウィーク日本版・世界が尊敬する日本人100」に選出されたこともあり、メディア出演も多数である。
正直言うと、今回の World Peace Concert Orchestra、そのまま訳せば「世界平和コンサート管弦楽団」の名を見て、若干の不審さを感じていた。
むろん、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関連の可能性を思ったからである。
だが、もし関連あらば、さすがに2024年のいまは、外務大臣表彰はあり得ないだろう。(安倍晋三政権時であればともかく)
一般に日本人は、バルカン半島の歴史や情勢に疎いと思われる。
第一次世界大戦の火種になったサラエボ事件――セルビア人ナショナリストが、ボスニアのサラエボでオーストリアの皇太子夫妻を暗殺――は歴史の授業で学ぶので知っている人は多いだろうが、戦後成立したユーゴスラビア王国、からのユーゴスラビア連邦人民共和国、からのユーゴスラビア社会主義連邦共和国、における周辺諸国入り乱れての内戦やナチス支配、ソ連崩壊を受けて6つの国家に分裂してからの激しい紛争については対岸の火事、どころか岸さえも確認できない遠い世界の話であろう。
ソルティもその一人。
わずかに、エミール・クストリッツァ監督『アンダーグラウンド』(1995)、プレドラグ・リチナ監督『ゾンビボーダーランド めざせ!アンデッドのいない国境地帯へ』(2019)などの映画を観ることによって、こんがらがった糸のごとき状況の複雑さと解きほぐし難さを知るのみであった。
柳澤寿男がどのような経緯で旧ユーゴスラビアに関わるようになったのか、音楽を通しての民族共栄の道を志すようになったのか、気になるところである。
2019年にアフガニスタンで狙撃されて亡くなった中村哲医師がまさにその一人であったが、世界のあちこちで現地の人々の平和と幸福のために地道な活動を続けている日本人がいる。
東武東上線大山駅下車
仕事の後の夜のコンサートは避けるという不文律を破って、開演直前に会場入りしたら、1263人収容の大ホールはほぼ満席。
一番前の列しか空いてなかった。
さすが第九、さすがクリスマス、さすが庶民価格(入場料1500円)である。
おかげで、迫力あるインスツルメントと合唱の波動をたっぷり浴びることができ、眠気も吹き飛んだ。
柳澤の指揮は非常に丁寧で、それぞれの楽章や楽節の構成の面白さや、楽器や声楽の効果的な用い方が、くっきりと浮き出すよう組み立てられていた。
すなわち、ベートーヴェンの天才にまたもやひれ伏す結果となった。
コーダ(終結部)のスピードは、ここ数年聴いた第九の中で最も速かった。
さすがに、フルトヴェングラー指揮による伝説の1951年バイロイト音楽祭のライブにはかなわないものの、あたかも、掃除機のコードがボタン一つでしゅるしゅると胴体に収納されるがごときであった。
独唱者はテノールの村上敏明が良かった。
どこかで聞いた名前だなと思ったら、2011年に『リゴレット』のハイライト上演でマントヴァ公爵を歌っているのを聴いていた。
艶のある朗々とした声は健在であった。
サプライズは、『きよしこの夜』のアンコール。
美しい重唱と清らかにして華やかなオーケストレイションは、今宵最高のプレゼント。
ここ数日、首の凝りがひどくて難儀していたのだが、『きよしこの夜』を口ずさむながらの帰り道、気づいたら凝りがほぐれていた。
音楽のパワー、第九のチャクラ活性効果をあらためて実感。
背中に停滞していた“気”がすっと通って、頭が軽くなり、年の終わりを迎えるにふさわしい明るい気持ちが宿った。

Xマスケーキを食べて「きよしこの夜」を歌い、
除夜の鐘を聴き、初詣に行く
除夜の鐘を聴き、初詣に行く
日本人ってほんと宗教的には節操がないよな