1964年日活
108分、白黒

帝銀事件死刑囚
主役の信欣三

 戦後間もない1948年(昭和23年)1月26日、東京都豊島区の帝国銀行椎名町支店で、死亡者12人に及ぶ毒殺強盗事件が発生した。
 本作は帝銀事件をテーマにした熊井哲の初監督作品である。

 前半は毒殺事件の再現と警察や新聞記者らによる捜査の様子、後半は容疑者として逮捕された画家・平沢貞通の取り調べと裁判の模様、が描かれる。
 平沢貞通は有罪となり最高裁で死刑が確定した。
 が、刑の執行も釈放もされないまま39年間を獄中で過ごし、この映画の公開から20年以上経った1987年(昭和62年)5月10日、獄中で病死した。
 95歳であった。

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平沢貞通画伯

 この事件については、松本清張が『日本の黒い霧』で取り上げているほか、横溝正史の『悪魔が来りて笛を吹く』でも「天銀堂事件」と名を変えて素材にされている。
 一言でいって、たいへん不気味な事件である。

 平沢貞通は冤罪の可能性が限りなく高く、真犯人は731部隊(大日本帝国陸軍関東軍防疫給水部本部)の関係者ではないかとする説が濃厚である。
 総力挙げて犯人探しに取り組んでいた警察が、731部隊に目をつけた途端、GHQからストップがかかったという。
 のちに反権力の社会派作家として名を成した熊井哲は、むろん、冤罪事件としてこれを描き、国家の謀略と暴力を告発している。
 綿密な取材に裏打ちされたリアルかつスリリングな演出と、信欣三、内藤武敏、笹森礼子、北林谷栄、鈴木瑞穂といった大スターではないが実力派の役者たちの起用が、ドキュメンタリー性を高め、作品にリアリティと品格をもたらしている。

 冒頭の毒殺場面において、真犯人は後ろ姿しか見せていない。
 その声は加藤嘉が担当している。

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青酸カリ入りの液体を薬と偽って銀行員に処方する真犯人
731部隊は中国で捕虜に対して同様の実験をおこなっていた



おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損