2012年実業之日本社

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 昨年末に聴いた板橋の「第九」の指揮者の自叙伝。
 読みやすく、面白く、感動的だった。
 これまでも、歌手や指揮者など音楽家の自叙伝を何冊か読んだが、彼らに共通して言えるのは、みんなとっても「感動屋」で「直感的」で「行動派」。
 子供のころから実に感動しやすく、よく泣き、よく驚き、よく共感し、感受性豊か。
 いったんなにか閃いたら、余計なことを考えず、すぐ行動にうつす。
 人のふところに入るのが上手い。
 典型的な右能人間なのだと思う。
 音楽は右能優位と言われるのと相関しているのかもしれない。

 小澤征爾に憧れて指揮者を目指し、佐渡裕に飛び込みで弟子入りし、大野和士や井上道義に可愛がられ引き立てられ・・・・と、指揮者を志す日本の若者なら誰もが羨むような経歴。
 その成功の要因は、もとからの音楽的天分や、異国の貧乏アパートで蛍雪の灯りで楽譜の勉強をする努力家であることもさりながら、人との縁に恵まれ、その縁を“自分の為でなく、他人の為、社会の為、音楽の為”に生かそうとするところにあるのだと、本書を読んで理解した。
 平和ボケしぬるま湯につかった極東の国の片田舎に生まれ育った一青年が、なにを好んで“ヨーロッパの火薬庫”たるバルカン半島に孤軍飛び込み、民族紛争の荒波に直面し、民族共栄のための音楽活動に従事することになったのか。
 人の運命というのは不思議なものだとつくづく思う。 
 そして、異なった言語、異なった宗教、異なった文化、異なった慣習をもつ多民族の心を、ひとつにまとめる音楽の力は実に偉大と思う。
 武器でなく楽器、武装でなく女装。 

ブレーメンの音楽隊

 平和ボケしぬるま湯につかった日本人は、ヨーロッパ各国やアメリカが日々直面している民族問題を、これからしこたま経験することになるのだろう。
 これまでもアイヌ民族や在日コリアンの人権問題が唱えられてはきたものの、大半の日本人にとっては「自らの生活に累を及ぼさない」レベルの“無視できる”問題だった。
 日本人の労働人口が増えない限り、そして日本人が今現在の生活レベルを維持したいと願う限り、今後、多様な民族の入国を押しとどめるのは難しいだろう。
 日本各地で、他民族との衝突の起こる可能性がある。
 埼玉県川口市のクルド難民問題など、すでに前哨戦は始まっている。
 我々がバルカン半島の歴史や柳澤の経験から学ぶことは大きい。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損