しばらく前から尿の匂いが気になっていた。
 小便の際に甘い匂いが立ち込める。
 「ひょっとして、糖尿病では?」
 このところ、食べ過ぎで体重が生涯MAXになっている。
 近所の泌尿器科に足を運んだ。

 待合室で問診票を書く。
 気になる症状の欄に「尿の匂いが甘い」と書き込み、ほかに「残尿感がある」、「頻尿である」のマスにチェックを入れた。
 トイレで採尿。
 名前を呼ばれ、診察室に入ると、30代くらいの若い男の医師だった。
 「尿に異常は見られません。匂いは気にする必要ありませんよ」と言う。
 なんとなく腑に落ちない気分でいると、
 「ああ、頻尿や残尿感がある? 前立腺肥大の可能性がありますね」
 机上のパソコンを操作して、泌尿器の図解を画面に映し出す。
 「男性は50歳を過ぎると、この前立腺が大きくなって尿道を圧迫するので、おしっこが近くなったり、最後まで出しきらなかったりします。ちょっと調べてみましょうか」
 言われたとおりベッドに横になると、下腹部になにか器具を当てられた。
 超音波検査だった。
 「ああ、やっぱり少し肥大が見られますね」

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『前立腺の病気』(日本新薬株式会社発行のパンフレット)より

 前立腺肥大!
 ふだんケアマネとして高齢者の健康相談を受けていて、多くの男性が前立腺肥大にかかっているのを見てきた。
 白内障や難聴や物忘れと同じく、加齢が原因で起こる老人病のひとつという認識であった。
 まさか自分がなるとは!・・・・と一瞬思ったが、自分も還暦越え、なっても全然おかしくなかった。
 実際、固有名詞が出てこないのは日常茶飯事だし、暗くなると視力が効かないし、わけなく咽ることが多くなった。
 「お薬を出しておきますから、毎日飲んでください。これで万事OKです」
 と医師は言い、意味ありげな笑みを浮かべた。

 薬局で薬を受け取り、家に戻った。
 ネットで前立腺肥大について調べる。
 前立腺の良性腫瘍で命にかかわることはないとある。(悪性の場合が前立腺がんである)
 が、放っておくと尿閉になって自分の力で排尿できなくなり、その場合は手術が必要になる。
 早めの治療が大切なのである。
 それにしても、医師が最後に見せた“意味ありげな笑み”とセリフが気になる。
 「これで万事OK」
 あれはいったいどういう意味だろう?
 薬袋から薬を取り出す。
 タダラフィルという名前の小さな白い錠剤。
 説明には「前立腺肥大を改善する」とある。
 ネットで検索する。

タダラフィル(Tadalafil)は、長時間型のホスホジエステラーゼ5阻害剤であり、日本での適応は、勃起不全 (ED) 、肺動脈性肺高血圧症、前立腺肥大の排尿障害である。

勃起不全の症状がある場合、ペニスが勃起し、性行為が正常に行える。性的刺激があったときのみ勃起が起こる、勃起機能改善効果であって、催淫剤ではないので性欲を亢進させる働きはない。
(ウィキペディア「タダラフィル」より抜粋)

 なんとバイアグラと並ぶ勃起不全(Erectile Dysfunction)の治療薬だった!
 機序としては、「血管を拡張させ、血流量が増える」、つまり海綿体に流れ込む血液が増えるのでカタくなる、ということらしい。
 前立腺肥大の治療においては、尿道を広げ排尿をスムーズにすることに加え、骨盤内の血流をよくすることで症状を改善する効果がある。
 男性医師の“意味ありげな笑み”の理由が分かった。
 いや、先生、ソルティは別にそこに悩んでいたわけではないんだが・・・・。

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 服薬を開始して1ヶ月。
 効果はてきめんで、1回に出る尿の量が増えて、トイレの回数が減った。
 夜間含め3時間に1回はトイレに行っていたものが、日中4時間に1回くらいになり、夜間は行かなくても大丈夫になった。
 これで長時間の映画やコンサートも安心して鑑賞することができる。
 残尿感もなくなり、しぼり残しの露で下着を濡らすことが無くなった。
 (そろそろ男性用パッドが必要なのではと、松岡修造のCMを見ながら考えていた)
 また、そもそもの受診の原因だった尿の甘い匂いが気にならなくなった。
 一回の尿量が増えたことで、尿が薄くなったためではないかと思う。

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 もう一つのほうの効果のほどは・・・・・。
 言わぬがホトケ、止めておこう。

テントを張る空海
四国88札所第21番太龍寺の舎心ヶ嶽に建つ弘法大師像