2022年ベルギー、オランダ、フランス
102分

クロース

 2025年最初の衝撃は、1991年ベルギー生まれの若い監督によってもたらされた。
 思春期の少年の友情が崩壊するさまを淡々と描いた、どこにでもある小さな物語。
 ――なのであるが、涙腺を崩壊させる威力ときたら!
 思春期を経験したことがあり、少年少女時代の心情のいくばくかを覚えている人間ならば、本作を観て必ずや心が痛むだろう。
 痛まない人がたらお目にかかりたい、いやお目にかかりたくない。
 最近、前立腺肥大を知ったソルティ。
 ひょっとしたら心臓にも欠陥があるのでは?
 ――と思ったほど、胸がしくしく痛んだ。

 幼馴染のレオとレミは双子のように仲がいい。
 何をするのも二人一緒。夜は一つのベッドで身を寄せて寝る。
 しかるに、中学校に入ると、二人の仲を冷やかす連中が現れる。
 「二人はカップルなの?」、「付き合っているんでしょ?」
 レミはそういったあてこすりをまったく気に留めないが、「おかま」と陰口をたたかれたレオは周囲の目を気にしてしまう。
 レオは、レミから距離を置き、他の連中と付き合うようになる。
 アイスホッケーを始め、マッチョな振る舞いをするようになる。
 わけも分からず一方的に突き放されたレミは、レオを責め、殴り合いの喧嘩に発展する。
 ある日、課外学習に参加したレオは、レミの欠席を知る。

 レオ役のエデン・ダンブリンの演技が天才的。
 自らの内にあるものに怯える心、親友を失ったショックと悲しみ、募りゆく罪悪感と誰にも言えない苦しみ。
 ラストに向かって高まっていく緊張を見事に持続させ、演じ切っている。
 レミ役のグスタフ・ドゥ・ワエルも好演。ナイーブな少年像にリアリティを与えている。
 レミの母親ソフィ役のエミリー・ドゥケンヌが実にすばらしい。
 世の母親たちは彼女の演技に紅涙を絞られるだろう。

 登場人物たちの心の襞を丁寧にさらった繊細きわまる脚本と演出。
 悲しくなるほど美しい映像。
 少年映画の古典的傑作、フランソワ・トリュフォーの『大人は分かってくれない』を想起させる、長回しの平行移動撮影の多用、ラストにおける主人公と観客との対峙ショット。
 いずれもが、ルーカス・ドン監督の映画的感性の類のなさを証明している。 

 亡くなった親友の影を背負って、レオは生きていかなければならない。
 成長とは残酷なものだ。
 負けるな、レオ!




おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損