3科目めの美術史概論(4単位)に取り組んでいるところ。
 テキストは『日本仏像史』(水野敬三郎監修、美術出版社)。
 詳細な解説に加え、各時代の有名な仏像のカラー写真が豊富に(240点近く)載っている。
 観仏マニア必携の素晴らしい本である。

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 本文の文字が小さい(8ポイント程度)うえに小口が結構ぶ厚い(約200ページ)ので、読み通すのが大変と思っていたのであるが、写真スペースを除いた文章部分は100ページに満たない。
 意外にすいすい読み進めている。
 もっともソルティは観仏マニアの一人なので、多大なる興味を持って読めるってのが大きい。

 実際、国宝に指定されているような各時代の代表的な仏像は、大半は実物を観ている。
 中学・高校時代の修学旅行に始まり、たびたびの京都・奈良旅行、鎌倉周遊、東北&関東の国宝仏をめぐる旅、そして東京国立博物館をはじめとする特別展出演のために上京された仏さまとの出会いの数々。
 旧友たちとの再会といった感覚で学習できるのは楽しい。
 気がつけば、地元の受験生らと一緒に、一日図書館で机に向かっていたなんて日も・・・。
 好きに勝るものはなし。

勝常寺の国宝
勝常寺(福島県湯川村)の国宝

 普段の観仏は、心を静めて手を合わせて拝み、仏像の種類(如来、菩薩、天部、明王、その他)を確認した後は、美的見地(美しいか否か)あるいはスピリチュアル的見地(癒されるか否か、パワーを感じるか否か)において、目の前の像を査定するのがならいであった。
 仏像が造られた歴史的・文化的・宗教的背景なり、時代ごとの様式の違いなり、材料や造仏技法といった点は、たいして気に留めなかった。
 仏師についても、法隆寺の釈迦如来三尊像をつくった鞍作止利、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像をつくった定朝、東大寺南大門の金剛力士立像をつくった運慶・快慶くらいしか名前が出てこない。

 今回、仏像が日本でつくられ始めた飛鳥時代からはじまって、天武天皇の詔により各地に寺院や仏像がつくられた白鳳時代、造仏が国家事業となった天平時代、空海のもたらした密教の影響を受けた貞観時代、国風文化と末法思想の興った藤原時代、そして武家政権の鎌倉時代・・・・と時代を追いながら、各時代の世相や仏教の様相や造仏技術や仏像の様式、あるいは個々の仏像のつくられた背景(注文主、制作の動機、作り手など)を知ることで、旧友たちのプロフィールをより深く知ることができた。
 「そうか。君はこんなライフヒストリーを持っていたのか。こういった時代の流行や制約や人々の願望を背負っていたのか」

 平成27年に国宝指定を受けた東京・深大寺の釈迦如来倚像について、その謎の来歴を調査した貴田正子著『深大寺の白鳳仏』(春秋社)に見るように、ひとつひとつの仏像には波乱万丈の物語がある。
 有名な興福寺の阿修羅像なんて、明治維新の廃仏毀釈の折りには、警官たちが暖を取るためにあやうく火にくべられそうになったそうな。
 同じ仏像を見る目も、時代によって変遷してきたのである。 

深大寺釈迦如来像
深大寺の釈迦如来倚像(東京都三鷹市)

 科学の進歩や新たな資料の発見等で、仏像の由来に関するこれまでの定説が書き換えられることもある。
 たとえば、東大寺南大門の金剛力士像について、ソルティは高校時代、「阿形は快慶、吽形は運慶」と習った。が、平成の解体修理の際に像内で発見された文書から、「阿形は運慶と快慶、吽形は定覚と湛慶」が担当したことが判明している。運慶が総監督だったのだろう。(明治時代の案内人は、「右は運慶、左は快慶、共に左甚五郎の作」と語っていたとかいないとか)
 一昨年の春に会いに行った京都・蟹満寺の金銅丈六の釈迦如来坐像も、白鳳時代の作とばかり思っていたが、本テキストでは天平期の可能性が示唆されている。
 仏像研究は現在進行形で動いているんだなあ。

 これからの観仏の旅がいよいよ楽しみになった。