2022年スウェーデン、フランス、イギリス、ドイツ
147分
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)で、洗練と醜悪を融合させた独特なスタイルによる風刺コメディで、世界をあっと言わせたオストルンド監督。
本作では、さらに手加減のない人間社会の醜悪が、コメディタッチで描き出される。
前半は、裕福な観光客の乗り合わせる豪華客船。
わがままな白人の大金持ちと、彼らに笑顔で奉仕するスタッフたちと、船内の清掃やベッドメイキングを担当する有色人種の従業員。
そこは、資本主義のつくりだした格差社会の縮図である。
ある上流マダムは、乗務員すべてに自分の目の前で泳ぐことを命じる。働いてばかりで、「今を楽しむ」ことができない乗務員に生きる喜びを知ってもらうために!
目をそむけたくなるほど醜悪な時化シーンを通過し、客船は海賊の襲撃を受けて、タイタニックさながら沈没する。
後半は、どこかの浜辺に漂着して生き残った人々のサバイバル生活が描かれる。
そこでは、火をおこし漁ができる自活能力にすぐれた者が集団のトップに立つ。
金持ちたちは何ひとつできず、客船でトイレの清掃をしていた中国系のおばさんが、野性的サバイバル能力を発揮して、権力を握る。
おばさんは、イケメンの白人青年に食べ物と引き換えに夜伽ぎを命じる。つまり、性の奉仕を。
邦題の通り、逆転のトライアングル。(原題は Triangle of Sadness、悲しみのトライアングル=形成外科の業界用語で「眉間のしわ」のこと)
前半の資本主義社会の格差の醜悪が、後半はいっさいの虚飾をはぎ取られた人間性の醜悪になりかわる。
どちらに転んでも醜悪でしかない人間たちを揶揄するかのように、オストルンド監督は船酔いした登場人物たちに盛大なゲロを吐かせ、トイレの便器から汚水を逆流させる。
食事しながらの鑑賞はお勧めできない。
上映時間は長いが、誰にでも心当たりのある人間性の真実が描かれているので、飽きることなく観てしまう。
深刻なタッチで描いたら、『タイタニック』+『蠅の王』あるいは『流されて』(1974)のごときになって相当しんどい内容を、突き放した視点で飄々としたタッチで描き出せるところが、この監督の才であろう。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損