2010年朝日新聞出版新書

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 著者は1948年鳥取生まれのノンフィクション作家。
 『北里大学病院24時 生命を支える人びと』、『アジア海道紀行』、『妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる』など、さまざまなテーマを取材し、本を書いている。

 本書は、邪馬台国と卑弥呼、『日本書記』と古代天皇の信憑性、古代東国の中心地だった上毛野(群馬県)、聖徳太子虚構説、大化の改新の真相、伊勢神宮誕生の謎など、古代史で議論沸騰しているテーマについて、著者の興味が赴くまま現地取材を重ねながら、最新(と言っても2010年時点であるが)の動向をレポートしている。

 文献が少なくて考古学的情報に頼らざるを得ない古代史は、いろいろな説が立てやすいので、教科書に落とせる最大公約数的レベルから、突飛ではあるが容易に反論もしにくい“トンデモ”レベルまで、ほんとうに「沼」なのだなあと思った。
 その時代の権力者の意図が反映されている『魏志倭人伝(三国志)』や『日本書記』や『古事記』、神社やお寺の由緒を語る寺社所蔵の古文書や古記録などを、どこまで信用するかで、描き出される古代の姿はずいぶん異なってくる。
 1万円札の肖像として親しまれ日本人なら誰でもその存在と立派な事績の数々を疑わなかった聖徳太子が、後世(天武・持統・文武天皇の頃)につくられた虚構であるなんて、いまさら言われても・・・・。
 本書では(懸命にも)取り上げられていないが、日本人とユダヤ人の先祖は同じだとする「日ユ同祖論」を真面目に論じている学者先生もいるらしく、ひょっとしたら、伊勢谷武も『アマテラスの暗号』をフィクションとして書いたのではないのかもしれない。

キリストの墓
青森県三戸郡新郷村戸来にある伝キリストの墓

 ソルティが某出版社に入社したばかりの40年近く前の話。
 某大学教授がアポなしで編集部に現れて、手書きの原稿を持ち込んだことがあった。
 自分が発見した真実を発表したいので本にしてほしい、と言う。
 最初に受け付けたソルティは、先生を応接室に案内すると、先輩社員につないで対応をお願いし、そのまま同席して話を聞いた。
 先生が発見した真実とは、「日本語と英語はルーツが同じ」というものであった。
 日本語はウラル・アルタイ語族に属し、英語はインド・ヨーロッパ語族に属すと、大学の言語学の講義で習っていた――日本語の起源に関する現在主流の学説はこれと異なるようだ――から、ソルティはびっくりした。
 なかば興奮しながら滔々と語る先生は、日本語と英語のルーツが同じである「証拠」として、自ら作った一覧表を見せてくれた。
  •  英語:Name(ナメー)= 日本語:名前 
  •  英語:Hire(ハイヤー)= 日本語:はいや(車を止めるときの掛け声)
  •  英語:Don’t mind(ドント・マインド)=日本語:どんまい
  •  英語:Laugh(ラフ)=日本語:わらふ
  •  英語:Tower(タワー)=日本語:塔(たふ)
  •  英語:Typhoon(タイフーン)=日本語:台風(たいふう)
  •  英語:Kill(キル)=日本語:斬る
  •  英語:Road(ロード)=日本語:道路
  •  英語:cold(コールド)=日本語:凍る度、凍る土
 ・・・・・・e.t.c.
 
 ××大学××学部教授と書かれた名刺を見返すとともに、丁重に如才なく応対する先輩社員の姿に、「社会人とはこうしたものなのか」と感心したのであった。



おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損