2016年吉川弘文館

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 10代のとき習った日本史の中味が、40年経過してずいぶん変わっているのを薄々察していながらも、なかなか更新する機会が持てなかった。
 奈良大学通信教育学部のスクーリングで、広大な藤原京の跡地に立った時、刷新の必要性を強く感じた。
 とり急ぎ、主要な変更点だけでも抑えるべく本書を手に取った。
 が、これもすでに10年近く前の刊行物である。
 そのうち、最新の日本史教科書に目を通したい。
 備忘のため、ソルティの脳内記憶と大きく変わった点を列挙する。

1. 年号の変化
  • 鎌倉幕府の成立 1192年→1185年
    源頼朝が征夷大将軍に任命された年(1192)から、全国に守護・地頭を置いた年(1185)に変化している。ただ、これも確定したものでない。つまるところ、「何をもって幕府の成立とするのか」で、学者間で意見が分かれている。
2. 名称の変化
  • 縄文式土器、弥生式土器→縄文土器、弥生土器
  • 大和朝廷(4世紀)→ヤマト政権
  • 任那(みまな)→加耶(かや)・・・任那日本府の実態が疑問視されている
  • 大化の改新(645)→乙巳(いつし)の変
  • 薬子の変(810)→平城上皇の変
  • 前九年の役、後三年の役、西南の役→前九年戦争、後三年戦争、西南戦争
  • 元寇→蒙古襲来
  • 応仁の乱→応仁・文明の乱
  • 島原の乱→島原・天草一揆
3. 消えた内容(用語)
  • 武家造・・・鎌倉時代の武士の屋敷を指したが、いまは「寝殿造」のバリエーションの一つとされ、廃語となった。
  • 御家人を前に縷々演説した北条政子の話は捏造(実際は御簾の中にいた)
  • 忠臣蔵を取り上げている教科書は、いまや全体の6%のみ
  • 江戸時代には「士農工商」という身分制度があった→「武士」と「百姓・町人」の二つに分けて説明。また、百姓=農民ではない
  • 慶安のお触書(1649)・・・現在では幕府の公布した法令ではないという学説が有力。
4. 増えた内容
  • 藤原京の成立(694)と規模の大きさ
  • 江戸時代の遊女など、各時代の女性像を扱う教科書もある
  • アイヌ史や北方史や琉球史
5. 解釈の変化
  • かつては、「縄文時代=縄文土器+狩猟採集」、「弥生時代=弥生土器+稲作」とされていたが、その後、縄文遺跡からの水田遺構の発見があい次ぎ、この図式が崩れた。時代区分を、土器の相違によって分けるか(BC3世紀頃)、稲作の開始によって分けるか(BC5世紀頃)で、弥生時代の始まりが変わってくる。議論がまとまっていない。
  • 聖徳太子(厩戸皇子)の格付け低下・・・冠位十二階、十七条憲法、遣隋使派遣など、これまで聖徳太子の事績とされてきたものが、推古政権全体の政治と位置づけられている。
  • 894年遣唐使の廃止によって国風文化が興った→遣唐使は838年を最後に実施されていなかった。中国文化の基盤の上に国風文化が生まれた。遣唐使の制度は「廃止」されたわけでなく、894年の回が「停止」になっただけ。
  • 神護寺にある源頼朝の肖像画のモデルは、足利直義の可能性が高い。(甲斐善光寺にある木像の頼朝こそ実際の姿に近い)
  • 関ヶ原の戦い(1600)の西軍大将は、石田三成でなく毛利輝元。
  • 「賄賂まみれの悪徳政治家」という田沼意次のイメージは払拭されて、経済振興をはかった人と評価されている。(NHK大河ドラマ『べらぼう』では渡辺謙が演じてイメージアップに貢献している)
  • 江戸時代は「鎖国」していたという概念が薄れ、「四つの口」を通して海外と交流していたとする解釈が増えている。

 歴史上の事件や事象を何と呼ぶか、そこには使い手やその時々の評価・歴史観、後世の価値観などが入り込みやすい。研究用語のみならず、史料に出てくる言葉であっても、その史料の書き手の見方が投影されている。また、その時代には意識されていなかったものの、後の時代になって、差別的であるとの理由などで忌避されていった用語もある。

 歴史は残された史料というレンズの破片を通して映し出された像であり、その像は必ずしも「真実」ではないこと、「正しい」歴史的評価など存在しないことに気づかせ、それを知ることこそが、「正しい」歴史学習の姿なのかもしれない。
 
 それにつけても、日本史だけでこれだけの変化がある。
 世界史と来た日には、どんだけ脳内記憶が古くなっていることやら!

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Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像




おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損