1983年東映
144分

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 昭和初期、土佐随一の料亭「陽暉楼」を舞台に、女衒の太田勝造(演・緒形拳)、その娘で芸者の桃若(演・池上季実子)、勝造の愛人で女郎となった珠子(演・浅野温子)を中心に、色と欲と暴力とプライドが入り混じる裏社会の人間模様を描く。
 原作は宮尾登美子の同名小説。

 この映画、昔観たような気がするのだけれど、もし観たのであれば、桃若こと池上季実子と珠子こと浅野温子が、15分間におよぶ取っ組み合いの大喧嘩をするシーンを覚えていないわけがない。
 同じ五社監督『吉原炎上』における仁支川峰子(当時は西川峰子)のタレント生命を賭けた壮絶な演技「ここ噛んで!」を、一度観た者が決して生涯忘れることができないように、池上と浅野の本気の大立ち回りも、映画の出来不出来や物語のあらすじとはまったく関係ない次元で、映画ファンの語り草になるに十分なド迫力の衝撃シーンである。
 ひょっとしたら、ソルティが観たのはテレビ放映版だったのかもしれない。
 であれば、コマーシャルからコマーシャルまでの15分間を女同士の取っ組み合いだけで埋めるのはいくらなんでも無理なので、短く編集されていた可能性がある。

 それにしても、五社監督は女同士の争いを描くのが好きだった。
 男たちの欲望の掃き溜めである料亭(その実態は芸者置屋)や遊廓で働く女たちが、序列や男客の奪い合いから互いに蹴落とし合う、言ってみれば、底辺にいて差別される者同士が強者の贔屓をもとめて争い合う。その姿を好んで描くとは、なんとも悪趣味なお人だなあという感を持つ。
 五社監督の作品からは、溝口健二の遊廓ものに見られたような、構造悪についての批判的眼差しを感じることができない。
 ヤクザをカッコいいと思う中学坊主と同じ単純な感覚で、女郎を美しいと思っていたのではなかろうか。(自身、全身に入墨をほどこしていたという)

 とはいえ、そのようなカタギから逸脱した世界で、自らの信念にしたがって懸命に誇り高く生きた人々を描いているのは確かで、裏社会の独特の「物語空間」を飲み込むことができれば、映画としては非常に面白い。
 芸者の世界だけに、着物や料亭のしつらいに見られる極彩色の映像は鑑賞し甲斐があり、着飾った女たちも美しい。

 女衒の勝造を演じる緒形拳の男らしさ、陽暉楼のやり手女将を演じる倍賞美津子の鉄面皮な貫禄、勝造の後妻で桃若の育ての親役の園佳也子の滑稽味、そしてここでも西川峰子のギャル風蓮っ葉さが印象に残る。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損