1974年日活
78分
玉の井(たまのい)は、戦前から1958年(昭和33年)の売春防止法施行まで、旧東京市向島区寺島町(現在の東京都墨田区東向島五丁目、東向島六丁目、墨田三丁目)に存在した私娼街である。永井荷風の代表作『濹東綺譚』、漫画家・滝田ゆうの『寺島町奇譚』の舞台として知られる。
(ウィキペディア『玉の井』より)
売春防止法の施行を目前にした昭和33年(1958)新春、玉の井の銘酒屋で働く女たちを描く。
銘酒屋とは、飲み屋を装いながら私娼たちに売春させていた店である。
女たちは店頭で客引きし、2階にある各自の部屋に上げて、しばしの快楽を男たちに提供した。
原作は清水一行『赤線物語』。
タイトル画、風俗考証は玉の井生まれの滝田ゆうが担当している。
場末感あふれる昭和の売春窟は、なんだか懐かしくなるほど人間臭い。
ドブと煙草と酒の匂い、饐えた畳の匂い、男の汗と精液の匂い、女の汗と化粧の匂い、火鉢で餅を焼く匂い、それらが入り混じった昭和の風景は、いまやどこを探しても見つかるまい。
むろんソルティは、赤線のあった時代を知らないし、玉の井のあった墨田区近辺には昭和の頃は足を踏み入れたことがなかった。
上野や浅草で遊ぶことはあったが、すみだ川より向うは長らく未踏の地であった。
懐かしさを感じるのは、SDGsやコンプライアンスやフェミニズムなんか「への河童」の、虚飾のはぎ取られた、貧しくも逞しい庶民の姿をここに見るからなのだろう。
だからそれは、“失ってよかった懐かしさ”である。
博打とシャブを打つのが日課の男、その男に殴られながらも必死に貢ぎ続ける女、毎日自殺未遂する女、一日27人の客を取るという店の最多記録に挑戦する女、一般の男と結婚し玉の井を抜けられたのに飽き足らず戻って来る女、娼婦たちを働かせつつも優しく見守る女将(彼女もまた若い頃は体を売っていたのだろう)、ぶらぶら遊んでいるその夫。
令和の若者たちの目には、お伽噺のように遠い、ありえない世界と映るに違いない。
それだけに思ったのは、昭和時代の映画とくに性愛をテーマとした日活ロマンポルノは、かつてあった日本の性風俗の記録として、民俗学的価値があるのではないかということである。
一般に、ポルノ映画は男たちの願望や妄想を描くので、現実と離れた絵空事の世界であるのは間違いないけれど、本作を含む神代辰巳監督の『四畳半襖の裏張り』、『赫い髪の女』や、田中登監督の『㊙色情めす市場』などは、昭和時代のリアルな街の風景や人間模様を映し出している。
女子供が観ることのない(=PTAが騒がない)ポルノ映画だからこそ、自由に描けた社会の暗部や性愛の現実がある。
たんなる射精映画と捨て置くのは間違っている。
宮下順子、丘奈保美、芹明香、蟹江敬三、殿山泰司など、役者たちも味がある。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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