2020年竹書房
初出は1989~91年『SFアドベンチャー』(徳間書店)

 タイトルと本の装丁に惹かれて手に取った。
 小学生の頃に夢中になったポプラ社の「明智小五郎&少年探偵団シリーズ」を偲ばせる。
 横田順彌(1945~2019)を読むのははじめて。

IMG_20250413_094034
カバーイラスト:榊原一樹
カバーデザイン:坂野公一

 明治時代の冒険家・中村春吉を主人公とする連作短編である。
 自転車に乗って世界中を無銭旅行する中村、彼がスマトラの遊廓から救い出した雨宮志保、そこに一獲千金を夢見て宝探しをする石峰省吾が合流し、怖いもの知らずの3人がアジアからシルクロードをたどって中近東へ、ロシアに寄り道してヨーロッパ、船に乗ってケープタウンへと、痛快至極な旅をする。
 ボルネオの密林では奇怪な樹の化け物、チベットの僧院では半魚人、ペルシャの砂漠では大魔神、ロシアの寒都では吸血女、ポルトガルの火山島では異次元生命体、アフリカの古沼では巨大甲殻類と遭遇し、毎回命の危険にさらされるも、知恵と度胸とチームワークと持ち前の運の良さで乗り切っていく。
 アドベンチャーとホラーサスペンスとSFと幻想小説と怪物退治とユーモア小説がミックスした楽しい読み物である。
 巻末に収録された『SFアドベンチャー』掲載当時のバロン吉元のイラストが芸術的にグロテスク!

 中村春吉(1871-1945)は実在の人物で、自転車による世界一周無銭旅行をした明治期の傑物である。
 汽車賃・船賃・宿賃・家賃・地賃を克服して無銭旅行をしたことから、「五賃将軍」と呼ばれ、フランスの新聞では「東洋の猛獣」と称されたという。
 横田順彌はこの男に心酔するあまり、冒険小説の主人公に仕立てたのである。  日本人ではじめてチベット入国を果たした河口慧海といい、この時代の日本男児のバンカラ精神は見上げたものだ。 


中村春吉
中村春吉

 

おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損