2023年アメリカ
92分
今年ここまでに観た映画の中で一番ショッキングな作品。
二重の意味でショッキング。
一つ目。本作はなんとワンカット撮影。
すなわち、最初から最後まで、手持ちカメラ一つで、途中カットをまったく入れずに撮り続けている。
92分の上映時間は、そのまま物語的時間であり、撮影にかかった時間である。
そんなことが可能なのかと言えば、前例がある。
スティーヴン・ナイト監督『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(2013)は、ワンカット撮影の上に、一人芝居で、ほぼ全編ドライブ中という、とんでもない高難度の演出&演技、加えて好脚本でバツグン面白い、奇跡のような作品であった。
うまくはまれば、生放送のごとき臨場感あふれる作品を生むことができるこの手法にチャレンジする監督も、昨今ちらほらいるようだ。
本作は見事にはまった例である。
いったい、どこまで最初につくりこんで、つまり、92分間の動きとセリフを役者たちにしっかり覚えてもらい、カメラ(撮影者)の位置と照明を設計して、「用意スタート!」を切ったのか。
いったい、何回リハーサルをしたのか。
何回、最初から撮り直しの目に遭ったのか。
複数の登場人物が出演し、車での移動や水上ボートの撮影もあり、後半すさまじい暴力シーンが続くので、これをワンカットで撮ったことに衝撃を受ける。
二つ目。なんと途中からワンカット撮影であることを忘れてしまう。
それだけ内容がエグイ!
恐ろしい‼
人権や多様性という言葉に反感を抱く白人女性たちが教会でミーティングを持ち、積もりに積もった鬱憤をここぞとばかりぶちまける“ヘイト祭り”。
酒に酔って気炎を上げ、たまたま店頭ですれ違った有色人種の女性二人に因縁をつけ、彼女たちの家まで押しかける“ヤンキー女子学生乗り”。
留守宅に不法侵入しイタズラしようとしたところ、突然二人が帰宅してパニックに陥る“お馬鹿っぷり”。
留守宅に不法侵入しイタズラしようとしたところ、突然二人が帰宅してパニックに陥る“お馬鹿っぷり”。
二人に対する口止めのための恫喝が次第に凄惨な暴力に発展していくさまは、まさに“集団ヒステリー”、というか“魔女のサバト(饗宴)”。
女性が同じ女性に対して、ここまで残酷な暴力をふるう映画を見たのは、はじめてかもしれない。(名前からして女性監督と思われる)
途中から「ワンカット撮影がどうの」なんて技術的なことをすっかり忘れて、目の前で展開される暴力と狂気に言葉を失い、画面に没頭し、展開を後追いするばかりとなった。
「男女同権、ジェンダー平等、多様性、ポリティカル・コレクトネス、アファーマティブ・アクション」といった言葉を心底憎み、昔ながらの良妻賢母こそ真のアメリカ人女性、と唱えるトランプ派の女性たち。
その暴力性ばかりはしっかり男と同列である。
現代アメリカのヘイト問題の根深さに慄然とさせられた。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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