2025年日本
95分

結界の寺

 タイトルとドキュメンタリーという点にだけ惹かれて、池袋シネマ・ロサの先行上映に足を運んだ。
 どういう映画なのかまったく調べずに。
 俗人禁制の寺での修験者の厳しい修行の模様を描いたフィルムを、漠然と想像していたのだが、蓋を開けたら全然違った。
 よもや除霊がテーマとは!

 主人公は、兵庫県神戸市にある真言宗九龍山永楽寺の住職・河村照道氏。
 幼少の頃から霊感が強く、成人しても霊に苦しめられる。
 29歳の時に師僧に出会い、僧侶として人を助ける運命を告げられる。
 その後、厳しい修行を経て、霊能力を磨き、除霊の方法を身につける。
 これまでに5000人以上もの除霊を行ってきた。

 めんどくさい説明などない。
 最初から最後まで、河村によるリアル除霊シーンが続く。
 河村の噂を聞きつけ、最後の頼みの綱と思いやって来た者。人に勧められるまま半信半疑でやって来た者。河村に会うや否や激しく抵抗し罵倒する者。自らの霊能力を生かすため河村に弟子入りする者。老若男女いろいろな事情を背負った人が、カメラの前に次々と現れる。
 堕胎した水子の霊に憑りつかれている母親。自死した父親の怨念に憑りつかれている息子。長距離トラックの仕事先でいろいろな霊を拾ってきてしまう男。中には、全国ニュースになったほど有名な殺人事件の被害者遺族もいる。
 依頼者たちが皆、カメラの前に平気で素顔を晒し、プライベートなことを話し、除霊現場を撮られることを受け入れるのに驚く。
 河村への感謝と信頼のなせるわざなのだろう。

 集団でバイクを乗り回し、ヤクザと喧嘩し、キックボクシングや極真空手を好む“ヤンチャ”青年であったという、河村の前歴も面白い。
 坊さんになって人を助けるなんて、本人も周囲もまったく想像の埒外だったのである。
 人の運命はわからない。
(なるほど、フィルムの中の河村の顔は、俗世の塵に染まぬ修行一筋の清らかな僧侶というより、世の荒波にもまれたガソリンスタンドのおっちゃんのようである)

 ソルティもまた仏教徒のはしくれであり、オカルトは嫌いじゃないので、興味深く鑑賞した。
 IT革命が進み、遺伝子操作で新生命体の造れる科学万能の世にあっても、霊は消えない。
 人の感情の滞りあるところに、霊は姿を現すのだ。

 上映終了後、なんと僧衣姿の河村本人が登場した。
 河村と、全国の事故物件を紹介する有名サイトの管理人・大島てるの特別対談があった。
 そのあと、会場から希望者を募って、河村による除霊実演が行われた。
 ガラ空き(20名くらい)の会場のあちこちから、何本も手が上がったのには驚いた。
 が、これはヤラセでもサクラでもなんでもなく、本当に力ある霊能者に霊視・除霊してもらいたがっている人は決して少なくないのだろう。

 考えてみたらソルティは、日本の除霊にしろ、欧米のエクソシストにしろ、テレビや映画でたくさんの除霊シーンを見てきたが、目の前でリアル除霊を見るのははじめてであった。
 よくあるように、除霊されている人がわけの分からないことをわめき出すとか、苦しみもだえるとか、首を360度回転させるなんて展開はなかった。
 ほっとしたような、物足りないような・・・。

IMG_20250519_201550
上映後のロビーで河村師より護摩塩をいただいた。





おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損