6月1日に美術史概論と民俗学の試験を受けた。
 東京の試験会場は、丸ノ内線・茗荷谷駅から徒歩7分にある林野会館。
 昨年12月の奈良大学通信教育学部OB・OGたちによる学習相談会で知った場所なので、迷うことなく行けた。
 降り続いた雨がやっと上がって、明るい陽射しと爽やかな大気が心地よい。
 「こんな絶好の行楽日和に試験を受けなければならないなんて・・・」
 と、ちょっと悲しい気持ちになる。
 が、「誰に言われたわけじゃない。自分で選んだ道だもの」
 と、杉村春子(@『女の一生』)を気取ってみる。

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地下鉄丸ノ内線・茗荷谷駅

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林野会館

 開始30分前に会館6階の控室に入ると、すでに40~50名の中高年らが着席し、机上にノートやレポートを広げて、最後のあがき(笑)に邁進していた。
 余裕があるのか、諦めているのか、奈良でのスクーリングで知り合った仲間とお喋りしている人もいる。
 ソルティも、自分で作成した美術史概論の5つの答案を読み返し、記憶の定着をはかった。
 これで通読11回目である。

 思えば、ゴールデンウィークが終わってから、テスト勉強一色であった。
 美術史概論と民俗学のそれぞれ5つの答案(各800~1000字)を5月20日までにどうにか完成させ、残り10日はひたすら10個の答案の暗記に従事した。
 5つの設題からどれが出題されるか、試験開始直前までわからないので、全部を暗記する必要があった。
 なんだか高校時代に戻ったような気がした。

 ソルティはこれまでに、運転免許を皮切りに、教員試験、英検、TOEIC、アロマテラピー2級、介護福祉士、社会福祉士、ケアマネ、福祉住環境コーディネーターと、いろいろな資格試験を受けてきたが、いずれもマークシート方式だった(教員試験には小論文があったかもしれない)。
 100%の筆記試験はなかった。
 複数の選択肢から正しいものを選んで、マークを塗りつぶせばよかったので、漢字や人の名前や年号を正確に覚える必要はなかった。
 今回のような筆記試験は、高校時代の定期試験以来だったのである。(大学の試験に関する記憶がないのが不思議だ。「レポート提出に代える」が多かったのかもしれない) 

 舞台役者がセリフを覚えるように、しっかりと文面を頭に叩き込んで、しかも、それを間違いなくアウトプットできるようにならないといけない。
 900字×10=9000字、原稿用紙約23枚分!
 あたかも、橋田寿賀子センセイに『渡る世間は鬼ばかりスペシャル』の脚本を渡され、「来週までに覚えておいて」と言われた泉ピン子のような気分だった。

 ネットで検索したら、卒業生のブログ記事に、スマホに答案を録音してそれを繰り返し聞いて覚えた、というのがあった。
 ナイス・アイデア
 目からだけでなく、耳からも記憶する寸法だ。
 そこで、「ボイスレコーダー」という無料アプリをスマホに入れて、自分の書いた原稿を自分で吹き込んで、何度も再生して脳に浸み込ませた。
 再生速度を自由に変えられるところが便利である。

ボイスレコーダー
ボイスレコーダーのロゴマーク

 それにつけても、漢字が書けなくなっていること、はなはだしい。
 読むことはできても、いざ書こうとすると書けない。
 数十年のパソコン生活がたたっている。
 たとえば、仏像がテーマの美術史概論なら、「廬舎那仏」「弥勒菩薩半跏像」「阿修羅像」「脱活乾漆像」「塼仏(せんぶつ)」「不空羂索観音」「棟梁」「宇治平等院鳳凰堂」「比叡山」「醍醐寺」「阿形・吽形」あたりは漢字で書けないと、カッコがつかない。
 最悪の場合、ひらがなやカタカナという手もあるが、減点対象になるやもしれない。
 漢字テスト前日の小学生のように何度も繰り返し紙に書いて、手に覚え込ませた。
 さらには、数十年ぶりに単語帳を自家作成した。
 朝夕の通勤列車の中で、単語帳をめくりながらブツブツ言っているオヤジを、周囲はどう思っていたことやら・・・。

 「1日に受けられるのは2科目まで」という決まりがあるのだが、いや、2科目以上は無理です。10題以上は覚えられません。
 2026年4月からは設題が1教科につき10題になるようなので、持ち込み可の科目との合わせ技を駆使しないことには、1日1科目しか受けられまい。
 よく考えて作戦を練らなけりゃ。
 
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単語帳とこの日のために買ったPILOT製シャーペン
「疲れない」「芯が折れない」という触れ込みだった

 試験開始10分前に5階ホールに移動。
 制限時間50分はあっという間だった。
 とにかく何も考えず、記憶が背中から逃げないうちに、ひたすら手を動かすのみ。
 室内は、群れなす鳥の羽搏きのような激しい筆音が響いた。
 平家軍が驚いて逃げたとか。(by富士川の戦い)

 民俗学は1000字ちょっとで、答案用紙の裏面4行まで書いた。
 美術史概論は900字ちょっとで、表面の8割くらい書いた。
 とりあえず、ほぼ作成した原稿通りにアウトプットしたので、あとは答案自体の質の問題である。
 結果判定は1ヵ月後。 

 次の試験は、7月初めの文化財学講読Ⅰと平安文学論。
 まだまだ続く。
 たいへんだが、この荷重な脳トレは認知症予防にはもってこいだ。
 林野会館を一歩出たときから、溜め込んだ記憶が水無月の青空に飛び去っていくのが見えた。

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