1953年新東宝
108分、白黒
椎名麟三原作の下町ヒューマンドラマ。
タイトルの煙突とは、かつて東京都足立区の隅田川沿いに存在した東京電力・千住火力発電所の煙突のこと。1926~1963年まで稼働していた。
見る場所によって煙突の数が1~4本に変化したことから、「お化け煙突」と呼ばれたという。
実際、映画の中で隅田川を渡る列車(常磐線 or 京成電鉄)の車窓から、この煙突が4本から1本へと変化していく様子が映し出されている。
視点によって姿を変える不思議なランドマークだったのである。
この煙突が見えるあたりは、東京の中でも貧しい地域であった。
隅田川の土手下にバラックのような木造の家が隙間なく立ち並ぶ。
ラジオの音、子供の騒ぐ声、宗教一家の読経や太鼓の音、夫婦喧嘩・・・・隣近所の物音が筒抜けで、プライバシーなぞ無いに等しい。
子供のいない夫婦(上原謙と田中絹代)は家の2階に若い男女の下宿人を置いているが、2人の部屋は襖一つで仕切られていて、女性(高峰秀子)は男性(芥川比呂志)の侵入を防ぐため、襖の内側から心張棒(つっかい棒)をしている。
そこからそれぞれが、お化け煙突に見守られながら、バスや電車で職場へ向かう。足袋屋の会計、競輪場の場内券売り、お役所の税の徴収、商店街のアナウンス。
ストーリーそのものよりも、昭和20年代の東京の下町風景が興味深かった。
家屋や家の中の様子、商店街や競輪場の光景、人々の服装、隅田川の土手からの眺めなど、戦後の焼け野原と昭和30年から始まった高度経済の狭間にある、絶望と希望の中間にある日本の庶民の暮らしがここに写し取られている。
ありがたいことに、HDリマスターによる復刻版なので、画面は驚くほど鮮明である。
失われた時代を記録する装置としての映画の意義を感じた。
ストーリーもまたこの時代ならではで、知らない間に家の中に置かれていた赤ん坊(捨て子)をめぐる騒動が中心である。
捨て子が多かった子供余りの時代だったのだ。(令和の今では考えられない)
赤ん坊の正体や処置、実の親探しをめぐって、上原と田中演じる夫婦と、高峰と芥川演じる若いカップルが、右往左往し、感情をぶつけ合い、愁嘆場を演じる。
最終的には、“雨降って地固まる”式に大団円で終わるので、喜劇と言っていいだろう。
上記4人の役者の中では、税の徴収をする公務員を演じる芥川がいい味を出している。芥川龍之介の長男である。
田中絹代は、この映画の作風からすれば、演技過剰でやや重い。
脇役で、坂本武、三好栄子、浦辺粂子らが出ているのが嬉しい。
視点によって姿かたちが変わる。
“お化け煙突”を人間の比喩として用いているのだろう。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損