日時: 2025年6月14日(土)
会場: 杉並公会堂大ホール
曲目:
- シベリウス: 交響曲第7番
- チャイコフスキー: バレエ「白鳥の湖」抜粋
- (アンコール)チャイコフスキー: バレエ「くるみ割り人形」よりトレパーク
指揮: 和田 一樹
語り: 和田 美菜子
シベリウス7番は初めて聴いた。
微妙~。
楽章が一つしかなく全体20分ちょっとで交響曲らしくない、ってのは別になんとも思わないが、曲自体が、支離滅裂と言うか、中途半端と言うか、堂々巡りと言うか、すっきりした態をなさず、聴いていて欲求不満におちいった。
交響詩『春の歌』を思わせるような非常に美しい、シベリウスらしいパッセージもあって、そこは北欧の風景が一瞬立ち上がる。が、長続きせず、またしても混沌の海に飲まれてしまう。
ある意味、マーラーの交響曲のような、めまぐるしく曲調やテンポの移り変わる“サーカス的混沌”を目指したのかなあと思ったけれど、どうなんだろう?
北欧生まれのシベリウスには、マーラー的混沌は似合わない。
失礼を承知で言うが、指揮の和田はともかく、オケの面々はこの曲をどれだけ理解して演奏していたのだろう?
それがソルティの正直な感想だ。
――と思ったのも、後半の『白鳥の湖』がとても素晴らしく、オケが完全に曲を理解し、演奏を楽しんでいるさまがビンビン伝わって来たからだ。
前半とは音のつやもパワーも違った。
もちろん、この有名なバレエ曲のいくつかのピースが耳に馴染んでいる観客側の期待度やノリの良さ、和田美菜子によるナレーションを付けてドラマ仕立てにした点も大きい。
おかげで、すべての曲において、風景が立ち上がった。
ドラマの内包する感情や雰囲気ごとにまったく的確な曲をつくり、聴く者の心を沸き立たせるチャイコフスキーの天才が歴然とした。
明暗、緩急、美醜、軽重、哀楽、動静、それにナポリ風やフラメンコ風やチャルダッシュ風と、バラエティに富んだ曲調を見事に表現し分ける和田の手さばきも光った。
ソプラノ歌手の和田美菜子のナレーションは、声が美しくてよく通ることは予期していたが、声優をやってもおかしくないくらい、声の演技が上手かった。
オデット姫やジークフリート王子や王子の母后を巧みに演じ分け、聴衆を物語に引き込んだ。
こういったナレーション形式の『白鳥の湖』を聴いたのは初めてだったが、とても良い趣向と思う。
これなら、ふだんクラシックに馴染みのない人も楽しむことができるし、小中学生の課外音楽授業にも最適である。
ソルティはこれまでバレエにはあまり興味なかったのだが、今回これを聴いて、「一生に一回くらいバレエ観に行こうかなあ」などと思ってしまった。
本公演の最大のクライマックスは、有名な「白鳥の主題」でもなく、黒鳥オディールによる32回転のグランフェッテでもなく、王子と悪魔ロットバルトの激闘でもなく、ジークフリート王子によるオデット姫への愛の告白シーンであった。
ここで、なんと和田一樹は、指揮棒をマイクに持ち替えて、ジークフリート王子になり切って、オデット姫へ愛の告白をやってのけた。
「ぼくはあなたを愛すると誓います!」
ナレーション役の和田美菜子とは実際の夫婦であるので、あたかもプロポーズの再現と言った場面であった。
杉並公会堂