1908年原著刊行
2015年早川書房

IMG_20250621_075808

 この本、当然読んでいるはずと思ったが、ストーリーをまったく覚えてなかった。
 認知症を疑うレベルで覚えていない。
 なんでだろう?
 ・・・・解説を読んで、分かった。
 本書の原題は、ARSENE LUPIN CONTRE HERLOCK SHOLMES 「アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ」
 シャーロック・ホームズ(SHERLOCK HOLMES)のまがいものなのであった。
 パスティーシュですらない。

 これは、当時生存していたコナン・ドイルから、勝手なキャラの使用についてクレームが入ったため、名前を変更せざるを得なかったから。
 相棒のワトソンはウィルソンに変えられている。
 それに伴ってか、二人の性格や間柄も、ドイルの原作とはずいぶん変えられている。
 ショームズ(=ホームズ)は驚くほど勘が鈍くて冷淡だし、ウィルソン(=ワトソン)は愚かすぎる。
 まるで、本舗ホームズ&ワトソンのイメージを貶めるために書かれたかのようで、シャーロキアンの一人として、気分がよろしくない。
 前回は、読む前にあるいは読んでいる途中で、「タイトルに偽りあり」と気づいたので、読むのを止めたのであろう。
 
 実際、シャーロキアンからすると噴飯物の内容で、これを読んだドイルがどれほど怒りくるったことか想像に難くない。
 仕返しに、『ホームズ対カルーセル・リュパン』なんて作品を書いて、ルパンを滅茶苦茶コケにしたら面白かったろうに、英国紳士であるドイルはそんな卑劣なまねはしないのであった。
 一応、ドイルに敬意を払って、あるいは各国のホームズファンの恨みを買わないよう、知恵くらべそのものは引き分けといった按配に終わる。(ショームズはルパンが奪った宝石を取り戻すのには成功するが、ルパンの逮捕には失敗)
 が、キャラクターの魅力では圧倒的にルパン圧勝である。
 相変わらず、ダンディで大胆で活気にあふれ、女にモテモテ。
 どんな高価な宝石よりも女心を盗むのに長けている。

 主役は当然ルパンなのでルパンに分があるのは仕方ないけれど、そればかりでなく、“ホームズ v.s. ルパン”のたたかいには、“英国代表 v.s. フランス代表”といった趣きが伴う。
 つまり、フランス読者は、どうしたって英仏の長い歴史上の因縁を踏まえて、本書を読むことになる。
 英国とフランスの関係は、「もっとも近くて影響し合う国であると同時に、もっともライバル視してしまう国」、ちょうど日本と韓国(朝鮮)みたいな感じだろうか。(すると、ドイツが中国か?)
 そのライバル意識は、コンドームの語源を巡って、英国は「フランスの地名コンドンにある」とする説を主張し、フランスは「イギリスの医師コンドームの名から来ている」と主張し、互いに不名誉(?)を押し付け合うという笑い話まで生んでいる。
 フランスの読者たちは、ホームズもといショームズが、ルパンに一泡吹かされて英国にすごすご帰っていくラストに喝采を上げたことだろう。(今もそうか)

condom-3112057_1280
BrunoによるPixabayからの画像

 ソルティは、小学校低学年の頃にルパンと出会い、すっかりファンになった。
 図書室にあったポプラ社のルパンシリーズを読破して、そのあと、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにはまった。
 怪人二十面相は、“日本版ルパン”なんだろうなあと思いつつ、本家とは違った残酷で恐ろしいキャラに、子供なりに彼此の文化の相違を思った。
 乱歩をあらかた読み尽くしたあたりで、ホームズの初登場作『緋色の研究』を手に取って、推理小説の面白さに目覚めた。
 どちらかといえば冒険小説&スリラーに近いルパンや少年探偵団シリーズとは違って、観察と知識と論理を駆使して謎を解いて真犯人をつきとめていくというスタイルが新鮮にして格好良かった。
 自分の小遣いでルーペを買って、しばらく探偵のまねごとをした。(パイプを咥えるのはまだ早いが、ホームズのかぶっていたキャスケットが欲しかった)
 女嫌いの変わり者だが、正義感強く友誼に篤い、ホームズのキャラにも惹かれた。
 ルパンはいつの間にか過去のヒーロー(恋男?)の一人に降格した。

 日本では、ホームズとルパンのどちらが人気あるのだろう?
 ネットで見つけたあるアンケートによれば、6対4でルパンのほうが人気高いようだが・・・。
 もっとも、ネット世代(=若い層)はルパン好きが多い、というバイアスがあるかもしれない。
 “ホームズ or ルパン?”の回答と“犬派 or 猫派?”の回答をかけた4類型で、回答者の基本的性質が判別できるような気がする。
 ソルティは、もちろん、“ホームズ×猫派”である。

cat-on-a-blue-background-5031754_1280
99mimimiによるPixabayからの画像




おすすめ度 :★★

★★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損