30度越えの日曜、最近は男もすなる日傘をさして、学科試験会場へ。
数日前に前回受けた民俗学と美術史概論の試験の合格通知が届いたのと、今回の試験は文化財学購読Ⅰの一教科のみということもあり、気分的に軽い。
が、5つの答案の暗記には手こずった。
水漬け状態にあった木製遺物を保存するためのPEG(ポリエチレングリコール)含浸法や真空凍結乾燥法(いわゆるフリーズドライ)であるとか、金属製遺物の脱塩処理(サビ止め)に用いる水酸化ナトリウム・炭酸カリウム・セスキ炭酸ナトリウムの水溶液であるとか、さらには電気化学的還元法・電気分解還元法・灼熱水素還元法であるとか、石造文化財が劣化する原因となる凍結劣化および塩類風化の仕組みであるとか、遺構を取り上げるのに用いるウレタンフォームの特徴であるとか・・・・高校時代に物理・化学が赤点だったソルティは、苦手意識が先立って、専門用語や説明がなかなか頭に入らない。
前回の美術史概論も、不空羂索観音やら木心脱活乾漆像やら伝衆宝王菩薩立像やら、仏像に関する小難しい専門用語が目白押しだったが、やはり興味ある分野については脳が活性化するのか、暗記が早かった。
つくづく文系である自分を思った。
こうなったら、「非水系アクリルエマルジョンの合成樹脂」で答案をくるんで減圧方式で脳内に浸透させようか。それとも、「土層の取り上げのように」合成樹脂を用いて答案を脳細胞に転写(接着剥離)させようか・・・・なんて妄想が起こるくらい――勉強した人にだけ分かる比喩です――頭の中は科学用語で飽和状態。
林野会館に向かう道中、表面張力が崩れ、せっかく暗記したことが地面にこぼれ落ちると困ると思い、よそ見せずにしずしずと歩いた。
ドラえもんの暗記パンがあったらなあ~。
それにしても、人間の暗記力というのは不思議である。
一週間前には、「絶対にこれを暗記するのは無理」と思っていた、かなりの分量の難解な文章を、試験前日には覚束ないながらも復唱できるまでになるのだから。
4年以上勤めている職場の電話番号をいまだ空で言えない自分にしては、よくやった。
まだまだ自分の短期記憶は大丈夫らしい。
こうやって自ら課題を与えて、脳を鍛えている限り。
然り。暗記パンに頼ったらいけない年頃なのである。
今回の出題は、『遺構の保存処理について』だった。
遺構とは、人間の活動の痕跡があるところで、移動できないものを言う。遺構・遺物があるところが遺跡である・・・・云々。
約980字を答案用紙の表面いっぱいに書いた。
終了10分前には書き終えた。


