1974年東宝
211分

華麗なる一族

 山崎豊子原作。
 昭和の高度経済成長期を背景に、大銀行の頭取一族の歪んだ愛憎関係や政財界の闇を描く。
 過去に映画化1回、TVドラマ化3回されている。

 まるで平安時代。
 専制君主のごとく振る舞う家長・万俵大介(演・佐分利信)が、家族公認のもと妻・寧子(演・月丘夢路)と愛人・高須明子(演・京マチ子)を同居させているさまは、あたかも複数の妾を六条院に囲っていた光源氏の君。
 しかも、光源氏の妾たちはそれぞれ別の建物(寝殿)に暮らし、夫である光源氏の訪れを待っていたが、本作の妻と妾は同じ邸に起居し、同じ食卓につき、さらにたまに妻妾同床の3Pの夜を持つ!
 「男は妻はひとりのみやは持たる、痴れのさまや(妻を一人しか持たない男は愚か者だ)」と藤原道長が息子頼通に言い放ったように、妾を持つのがステータスだった平安貴族もびっくりの所業である。

 また、大介は長男の鉄平(演・仲代達矢)を生まれたときから疎んじていて、その憎悪が物語を動かす要因となっている。あたかも、『美味しんぼ』の海原雄山と山岡士郎のように。
 その原因は、鉄平が大介の実子ではなく、妻・寧子が大介の父・敬介に犯されたことによってできた子供だったからである。
 つまり、大介にしてみれば、鉄平は腹違いの兄弟ということになる。
 これが平安末期の第74代鳥羽天皇と第75代崇徳天皇の関係を想起させる。
 もっとも、鳥羽天皇の妻である中宮・藤原璋子を寝取って崇徳天皇をつくったのは、鳥羽の父親の第73代堀川天皇ではなくて、祖父の第72代白河天皇であったが・・・。(鳥羽天皇が、形の上では息子である崇徳天皇を「叔父子」(祖父白河院の子、つまり自分から見て叔父にあたる)と呼んで、なにかにつけ疎んじていたことは有名である)
 大介が鉄平を憎むのは、父・敬介に対する恨みが根底にあるからなのだ。
 万俵家の後を継ぐべき鉄平は、その面差しと言い、果敢な仕事ぶりと言い、恐ろしいほど敬介に似ていた。
 大介は、鉄平を見るたびに、憎き父親を思い出さずにはいられなかったのである。

 さらに、自らの息子や娘を政略結婚の駒として用いるのを当然とする大介の横暴ぶりが、娘を皇室や有力家系の子息に嫁がせる平安貴族の家長そのもの。
 息子や娘の意志などまったく試みない。
 家の繫栄が第一。
 いや、自分が慎重に吟味して選定した相手と縁づくことこそが、子供の幸福だと確信してさえいる。
 そうした打算によって生まれた家庭が幸福であるはずがなく、大介の息子や娘はあるいは不満を募らせ、あるいはシニカルになって自堕落な生活に溺れていく。
 これが“華麗なる一族”の正体なのである。
 
 昭和末期って、ここまで平安そっくりだったのか!
 ――と今さらながら感心したが、時代や国に関係なく、社会の上層を占める門閥界隈では、いずこも同じことが繰り返されているのだろう。
 普遍的なテーマと言える。

光源氏と夕霧

 大銀行の合併にまつわる権謀術数とか、政官財の癒着とか、大口顧客獲得をめぐる熾烈な銀行同士の争いとか、政治家への裏金とか、料亭政治とか、鎌倉に蟄居する政財界の黒幕(フィクサー)の存在とか、「ザ・昭和」感があふれている。
 こういう世界――政治経済をめぐる男たちの存亡をかけた闘い――に昔からソルティはまったく興味が持てず、その世界になるべく関わらないように生きてきた。それゆえ、本作も敬遠していた。
 この世では“負け組”になるべく宿命づけられているんだなあとつくづく思う。(よく還暦まで生きてこられたものだ)
 一方、「ザ・昭和」が成り立ったのは、良くも悪くも、景気が良かったから、男たちが元気だったから、という点に思い至る。
 現在、この小説の舞台を令和日本に変換してそのままドラマ化すると、いろいろな無理が生じるだろう。

 その意味で、昭和・平成・令和の各時代に制作された『華麗なる一族』のTVドラマを比べてみるのも一興かもしれない。
 以下のような配役で映画化、ドラマ化されている。
  • 昭和44年(1974)映画(本作)
    大介=佐分利信、鉄平=仲代達矢、寧子=月丘夢路、高須相子=京マチ子、大蔵大臣=小沢栄太郎
  • 昭和44年(1974)TVドラマ
    大介=山村聰、鉄平=加山雄三、寧子=久我美子、高須相子=小川真由美(適役!)、大蔵大臣=山形勲
  • 平成19年(2007)TVドラマ
    大介=北大路欣也、鉄平=木村拓哉、寧子=原田美枝子、高須相子=鈴木京香、大蔵大臣=津川雅彦
  • 令和3年(2021)TVドラマ
    大介=中井貴一、鉄平=向井理、寧子=麻生祐未、高須相子=内田有紀、大蔵大臣=石坂浩二
 本作では、大介役の佐分利信の不遜なる貫禄、お妾役の京マチ子の豊潤な色気と毒気、大蔵大臣役の小沢栄太郎の底知れぬ大物ぶり、ベテラン勢のこなれた演技が光っている。
 ほか、目黒祐樹、香川京子、山本陽子、酒井和歌子、大空真弓、北大路欣也、加藤嘉、神山繁、細川俊夫、大滝秀治、金田龍之介、鈴木瑞穂、小林昭二、下川辰平、北林谷栄、中村伸郎、滝沢修、志村喬、西村晃、二谷英明、田宮二郎など、“華麗なる”出演陣に目が眩む。



 
おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損