2022年デンマーク、ドイツ、スウェーデン、フランス
117分、ペルシア語
原題 “Holy Spider”
10年に1本のウミウシ映画『ボーダー 二つの世界』(2018)の監督作品と知ってレンタルした。
本作もきっとウミウシ的要素(ジャンルを特定できない、説明しようのない奇天烈さ)が濃厚にあるのだろうと期待したが、オーソドックスなサイコパス・スリラーであった。
ただ、これを“オーソドックス”と言ってしまうこと自体が奇天烈かもしれない。
というのも、本作は実際にあった事件をもとにしているからである。
2000~2001年、イランの地方都市マシュハドで、サイード・ハナイという男が、16人の娼婦を殺害した。
サイードは1962年生まれ。イラン・イラク戦争(1980-88)に従軍した経験を持つ。建築業で働き、3人の子持ちだった。
犯行は2000年8月から開始された。街で拾った娼婦をバイクに乗せて郊外に連れ出し、女たちが身に着けていたヒジャブで絞殺した。
マスコミは犯人を“spider killer(殺人蜘蛛)” と名付けた。
裁判でサイードは「神の承認のもと、町の浄化のために行った」と言い、一部の熱狂的な支援者を得たが、2002年8月に処刑された。
娼婦やドラッグのはびこる不浄な社会に憤りを感じ、みずから浄化役を買って出るという“ハタ迷惑な”主人公の姿は、『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせる。両者が戦争を経験しているのも共通項である。
Wikiによれば、サイードの場合、子供の頃に母親からの虐待を受けていたらしい。ヒッチコック監督『サイコ』の例に見るように、狂信的・支配的な母親が女性蔑視のシリアルキラーの息子を生み出す傾向があるようだ。
むろん、その奥には、狂信的・支配的な母親を生み出してしまう何らかの社会構造の歪みがあるわけだが・・・。
日本であまり類例がないのは、やはり、一神教という宗教的要因が絡んでいるのではないかと思う。
本作はイランが舞台だが、撮影はヨルダンで行われた。
イラン政府からの許可が下りなかったからだ。
公開後もイラン政府から、「全世界何百万人ものイスラム教徒とシーア派の人々の信仰を侮辱した」と抗議されている。
殺人犯の正体をつきとめようと骨折る女性記者を演じるザーラ・アミール・エブラヒミの、フェミ的な強い眼差しが印象的。
第75回カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得している。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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