TOPPAN――2023年9月までの屋号は凸版印刷――小石川ビルの中にある。
「人間文化において印刷が果たす役割を、広い視野のもとで考える」というコンセプトのもと、2000年に創設された。
日本と世界の印刷の歴史の展示、印刷工房での活版ワークショップ、さまざまな企画展などを行っている。
日本と世界の印刷の歴史の展示、印刷工房での活版ワークショップ、さまざまな企画展などを行っている。
ソルティが昔勤めていた出版社は、凸版のライバルである大日本印刷(新宿区市ヶ谷)と取引していたので、ここには来たことがなかった。
有楽町線・江戸川橋駅の階段を上り、折り畳みの日傘をひろげ、猛暑の往来に身を晒した。

TOPPAN
1900年(明治33年)1月、版画家のエドアルド・キヨッソーネに学んだ技師の木村延吉と降矢銀次郎らが創業した。当時の本社は東京市下谷区(いまの上野駅前)にあった。

現在の館長は、なんと小説家の京極夏彦!

夏休み中のこともあってか、子供連れが多かった。

印刷博物館入口
一般500円、学生200円
もちろん、学生で入った。

プロローグ
日本と世界の太古からの印刷物が陳列されている。

現存する日本最古の写本(手書き本)は聖徳太子自筆の『法華義疏(ほっけぎしょ)』。日本の書物の歴史は写経に始まる。次が戸籍である。

日本最初の印刷物は、天平宝字8年(764)称徳天皇発願によりつくられた「百万塔陀羅尼」。印刷年代が明確な世界最古の印刷物でもある。木版か銅板かで意見が分かれるが、展示では銅版を鋳造する作業の動画が流されていた。
以降、室町末期まで、印刷は主として寺院発行の経典や漢籍に限られ、一般の書物(たとえば『日本書記』や『源氏物語』)は書写が普通だった。
ここで豆知識
- 製版印刷・・・版木に文字を左右逆に彫ってその上に墨を塗り、紙をかぶせ、バレンでこすって印刷する方法。日本は古来、製版印刷が主流。
- 活字印刷・・・1字ずつ独立した文字を彫刻し、これを配列組み合わせて原版にし、印刷する方法。室町時代末期(1592年)の豊臣秀吉による朝鮮侵攻がきっかけとなって日本にもたらされた。

江戸時代の活字印刷の道具
後陽成天皇、後水尾天皇、徳川家康、豊臣秀頼らが率先して、活字印刷による書物を発行し、知識の普及に努めた。これにより、江戸時代初期に印刷文化が花開く。

本阿弥光悦制作による『伊勢物語』
仮名のくずし字の美しさは活字本とは思えない域に達している。
ほかに、『万葉集』、『竹取物語』、『枕草子』、『古今集』、『太平記』など、多くの古典が活字印刷され、庶民の目に触れるようになった。

NHK大河ドラマ『べらぼう』主人公・蔦屋重三郎による『吉原細見』。吉原で働く遊女たちの名が列挙されている。
これは木版である。活字印刷の隆盛は、理由あって、50年ばかりで衰え、製版印刷に取って代わられた。

『庭訓往来(ていきんおうらい)』
江戸時代の寺子屋の教科書。

浮世絵の色刷りの過程

明治になると、西洋の進んだ技術が入ってきて、ついに活字印刷が主流となる。
『東京日日新聞』(現在の『毎日新聞』)は明治5年(1872)に誕生した。

懐かしい、ペコちゃん
戦後になると、印刷物のカラー化も進んだ。

『週刊新潮』創刊号(1956年2月)
日本最初の週刊誌。谷崎潤一郎『鴨東綺譚』掲載とは驚いた。
表紙絵は、創刊時より1981年まで谷内六郎が担当。(♬夕焼け小焼けの赤とんぼ、が聞こえてくる人は間違いなく昭和世代)

マルティン・ルター制作ドイツ語版『新約聖書』(1548~1559)

ディドロとダランベールらによる『百科全書』(1751~1780年)

印刷工房
活字印刷を体験するワークショップが開催されている(予約制)。
![DSCN7476[1]](https://livedoor.blogimg.jp/saltyhakata/imgs/4/e/4e604f7e-s.jpg)
コロンビアンプレス1835
アメリカの高級印刷機。アメリカの象徴である鷲が飾られている。

鉛製のアルファベット活字

併設のデジタル文化財ミュージアムでは、最新のデジタル技術を活用した文化財の鑑賞体験ができる。(予約制)
吉野・金峰山寺の秘仏である3体の蔵王権現立像(像高約7m)の大迫力のバーチャルリアリティ体験、および行方不明中の伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」のデジタル推定復元を鑑賞することができた。

伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」(デジタル推定復元)

期待以上に充実の内容で、猛暑をおして行った甲斐があった。
次回は、活字拾いのワークショップに参加し、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の世界に浸ってみたい。
ジョバンニは何べんも目をぬぐいながら活字をだんだんひろいました。六時をうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱を、もういちど手にもった紙きれと引き合わせてから、さっきのテーブルの人へ持って来ました。その人は黙ってそれを受け取ってかすかにうなずきました。(新潮文庫『銀河鉄道の夜』)
