1996年原著刊行
2001年早川書房(訳・山本やよい)
『偽のデュー警部』、『バースへの帰還』に次いで3作目のラヴセイ。
黄金時代(1920、30年代)の本格推理小説の香りを漂わせる現代英国作家である。
――とウィキで調べたら、2025年4月に88歳で他界していた。
本作は、本格推理の定番中の定番、「密室」トリックに正面から挑戦している。
外側から扉をドイツ製の頑丈な南京錠で閉ざされたボートの中で、男の死体が発見された。
ほかに出入り口はない。
南京錠の鍵は1つしかなく、ボートの持ち主が肌身離さず持っていた。
ボートの持ち主には鉄壁のアリバイがあった。
死亡推定時刻には、別の盗難事件の容疑で、現場から数キロ離れた警察署で取り調べを受けていたのである。
誰が、どうやって、男を殺したのか?
なぜ、わざわざ密室にしたのか?
さらに輪をかけて“本格”っぽいのは、殺された男とボートの持ち主は同じ同好会に所属していた。
それが猟犬クラブ――週1回バースの街中でミステリー好きが集まって喧々諤々の議論する集まり。
当然、カーやクリスティやウンベルト・エコーやイアン・フレミングなどの名が上がり、古今の推理作家に関する容赦ない批評が飛び交う。
カーの密室物の傑作『三つの棺』が事件の重要なカギとして扱われる。
さらにまた、盗難事件と殺人事件を事前に予告する暗号めいた詩文が、毎回マスコミに寄せられ、ピーター・ダイヤモンド警視をはじめとする警察は翻弄される。
本格ミステリー好きの読者にはたまらない設定なのである。
600ページ近い文庫本を丸一日で読み終えた。
真犯人は、ソルティが途中から目星をつけていた人物とは違っていた。
悔しいが、さすがに英国の地理感がないので仕方ない。(←言い訳)
密室のトリックは素晴らしい。
蓋を開けて見ると、あっけないほど単純な仕掛けなのだが、単純なものほど思いつかないものである。
このトリックが悪用されると怖いな。
レッドへリング(怪しい人物)を巻き散らし、読者を攪乱するあたりは、さすがベテラン。
真犯人の意外性もまずまず。
惜しむらくは、探偵役のダイヤモンド警視の推理が冴えない。
逮捕する直前まで真犯人の見当がつかないってのは、いささか情けない。
そこは往年の本格物の探偵群(ホームズ、ブラウン神父、ポワロ、クイーンe.t.c.)とは異なるところか。
だが、ITやポリコレが苦手で、若く有能な女性警部ジュリーに時にたしなめられるダイヤモンド警視の姿は、なかなか「昭和」を払拭できないソルティにしてみれば、苦笑いしつつ共感を覚えるところである。
ピーター・ラヴセイの冥福を祈る。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損

