1935年イギリス
88分、白黒

39夜

 『バルカン超特急』(1938)と並び称されるヒッチコック監督の初期の代表作の一つ。
 原題は The 39 Steps 「39階段」だが、邦題はシェークスピアの喜劇『十二夜』を思わせるロマンチック風に改変された。
 「階段」と「夜」とでは似ても似つかないが、ストーリーの中に階段が出てくるわけではないので、別に「三十九章」でも「三十九手」でも「三十九次」でも、なんなら「四十八手」でもかまわな・・・・・かまうか。

 巻き込まれ型スパイスリラーの教科書と言っていい。
 適度な省略によるテンポの良さ、お色気とサスペンスとユーモアの絶妙な配合、劇場や滝をロケに用いた効果的な演出。無駄が一切ない。
 ヒッチコックが無かったら、『ルパン3世』は生まれなかっただろう。

 主演のロバート・ドーナット (1905-1958) は聞いたことのない名前だが、イギリス出身の舞台俳優。サム・ウッド監督『チップス先生さようなら』(1939)でオスカーをもらっている。(ソルティは、ピーター・オトゥール主演の1969年版『チップス先生さようなら』を観ている)
 市川崑監督の妻で脚本家であった和田夏十のペンネームは、ドーナットからもらったという。
 たしかに、女性観客(とゲイ)なら誰でもしびれるような気品ある美男ぶり。
 殺人犯と誤解され警察に追いかけられる主人公が、列車のコンパートメントに乱入し、そこにいた女性客にいきなり抱きついて口づけし、追っ手をくらませるシーンがある。旅行中の恋人同士を装ったわけだ。
 いきなり見知らぬ男に唇を奪われた女性客にとっては青天の霹靂、というかレイプまがいの性暴力ではある・・・・が、どうなんだろう?
 これが、ドーナットやジェラール・フリップやアラン・ドロンやヨン様や竹野内豊や竹内涼真ばりの美男だったとしたら、建て前はどうあれ、内心思わずよろめいてしまわないだろうか?
 ソルティは自信がない。

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ロバート・ドーナットとマデリン・キャロル

 惜しむらくはフィルムの古さ。
 夜の戸外の捕り物シーンなど、事物の見分けがつかないくらい映像がつぶれてしまっていた。
 デジタルリマスター版が出ているようなので、観るのならそちらがおススメ。


 
おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損