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日時: 2025年9月20日(土)13:00~
会場: 東京芸術劇場 コンサートホール
曲目:
  • ワーグナー: 歌劇『ローエングリン』第1幕への前奏曲、第3幕への前奏曲
  • マーラー  : 交響曲第2番 ハ短調『復活』
      ソプラノ: 和田 美菜子
      アルト  : 野間 愛
指揮: 和田 一樹
合唱: オルフ祝祭合唱団

 池袋芸劇の大ホール(約2000席)を満席にする豊島オケ&和田一樹の人気は凄い。
 たしかに全席指定1000円という破格値は大きいが、マーラー第2番『復活』は1番や4番や5番にくらべると、そう簡単に「聴きに行こう!」と思えるものでないだけに。
 なんたって、85分の長丁場だもん。
 長丁場を少しも退屈に感じさせない和田の腕前に、多くの人が気づいてきたのだろう。
 どんなフレーズにもなにかしら新しい工夫があって、「オヨヨ?」と思わせ、最初から最後まで気を抜いている暇がないのが、和田の楽曲構成の特徴である。
 今回も、「なるほど、こう来たか!」と唸らせられる箇所が多々あった。

 前プロにワーグナーのオペラ曲をもってきたせいなのか、あるいはテンポが全体にゆったりだったせいなのか、今日の『復活』はよく歌っているなあと思った。
 メロディラインの美しさが強調されている感をもった。
 途中何度も「ベルカント(belcanto)」という言葉が脳裏をよぎった。
 ベルカントは一般に、17世紀から1840年頃までのイタリアの伝統的な声楽様式で、“色彩とニュアンスに富む滑らかな歌い方”(AIアシスタント『ベルカント』より)を指す。
 代表的な作曲家は、イタリアのロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディ、せいぜいプッチーニあたりまでだろう。
 なので、マーラーの音楽とベルカントを結びつけるのはお門違いという意見はあろう。
 だが、一見、重厚で複雑極まりなく、暗いイメージのあるマーラーの音楽には、時折、シンプルで美しい旋律が、岩の割れ目から湧き出づる泉のように、キラキラと輝いている。
 それは時に、クラシックというより、遍歴芸人が路上や広場で奏でる手風琴の音楽のような、誰にでもわかりやすい、誰の心にも染み入りやすい、ポピュラー音楽そのもの。
 現代に至るまで世界中で愛され上演され続けているイタリアオペラの人気作品――『セビリアの理髪師』や『ノルマ』や『ルチア』や『椿姫』や『蝶々夫人』など――にふんだんにあふれている美しい(bell)歌(canto)の世界が、ここにはある。

 あれ? 今のフレーズ、なんだかヴェルディの『リゴレット』っぽいなあ。
 あっ、ここプッチーニの『トスカ』に似ている。
 おっ、ここはワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』のようだ。

 そう、交響曲第2番『復活』という大作が、オペラを聴いているかのように感じられた。
 当然、その延長上に第4楽章、第5楽章の声楽パートが乗る。
 すなわち、全体が一つの歌のように感じられた。

沢登り

 正直申せば、クリスチャンでないソルティには、第8番『千人の交響曲』同様、第2番『復活』のテーマが理解できるとは言えない。
 『聖書』の復活エピソードがどれだけクリスチャンにとって重要なものか分からないし、第4楽章以降に導入される独唱や合唱のドイツ語歌詞の日本語訳を読んでも、ピンと来ない。
 マーラーは、この曲の内容に関して、手紙の中でこう述べている。
 
 (第一楽章は)次のような大きな問題を表している。すなわち、汝はいかなる目的のために生きてきたのか、ということである。この問いを聞いた者は解答せねばならず、私はこの解答を終楽章で与えている。 

 しかるに、ソルティには、マーラーが、人の「生きる意味」にどのような解答を与えたのか、終楽章を聞いても判然としない。
 ぶっちゃけ、そのような高尚な意味合いがこの曲に秘されているのか訝しくさえ思う。(それを言ったら、ベートーヴェン第9番第4楽章「歓喜の歌」だって同じなのだが)

 敬虔なクリスチャンの耳には、おそらく、ベートーヴェン第9やマーラーの第2番と第8番が、ソルティの耳に聴こえるのとはまったく違った風に響くのだろう。
 なにかしらスピリチュアルな感動や天啓を受けて、聴いた後は自らの信仰をより固くするのかもしれない。

 そのような聴き方ができないハンディは致し方ない。
 とりわけソルティはテーラワーダ仏教徒なので、絶対神の存在や永遠不滅の魂を信じていない、クリスチャンをはじめ多くの西洋人の共有する「物語」を共有していないのだから。
 ではなぜ、第2番『復活』やベートーヴェン第9に感動できるのか?
 そこが音楽という芸術の秘密であり、脳(=心)という現象の不思議なのだろう。
 ベルカントな『復活』は、その一つの答えである。

 豊島区管弦楽団さん、創立50周年記念おめでとう!
 これからも機会あれば、足を運びます。

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