2020年中国
103分
原題『一秒鐘』

ワンセカンド

 『紅いコーリャン』、『活きる』、『あの子を探して』、『初恋のきた道』、『HERO』、『単騎、千里を走る。』、『王妃の紋章』、『グレートウォール』など、歴史・人情・アクション・恋愛・サスペンス・コメディといった多様なジャンルの傑作・話題作・大作を連発し、「中国の黒澤明」というにふさわしいチャン・イーモウ。
 まぎれもなく、『黄色い大地』、『子供たちの王様』、『さらば、わが愛/覇王別姫』、『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』のチェン・カイコ―と並んで、中国映画史上もっとも成功した監督である。
 ソルティは、どうも昔からこの2人の監督を混同してしまう。

 2人とも素晴らしい監督であるが、残念なことに、国策映画を撮らされてしまう。
 中国共産党下では、ほんとうに撮りたい映画がつくれない。
 ちょうど、スターリン独裁下の作曲家ショスタコーヴィチのように。
 華々しい成功の蔭で、欧米や日本の映画監督にはわからない忸怩たる思いがあるものと想像される。

 本作は、「この作品を映画を愛するすべての人々に捧げたい」という監督の言葉が表しているように、映画愛がテーマである。
 なので、あまり政治的な縛りを受けることなく、自由に撮れた一品と言える。

 文化大革命(1966~76)真っ只中の中国の地方の村を舞台に、3ヶ月に一度の上映会に際して巻き起こる人間ドラマが描かれる。
  • 上映が終わった町から次の町へ、缶に入ったフィルムをバイクで運ぶ男。
  • 本編の前に流される短いニュース映像を観ることだけを目的に、遠い隣り町から砂漠を越えてやってきた男。
  • フィルムを盗もうとする男まさりな少女。
  • 村に一人だけの映写技師で、村民から敬意を払われる館主。
  • やっと到着したフィルムを不注意から駄目にしてしまう館主の息子。
  • 映画上映を心から待ち望み、フィルムの修復に協力する村民たち。
 一本の映画の上映をめぐって、これだけ熱い人間ドラマが展開される。
 映画が娯楽の殿堂だった時代があった。
 好きな時に、好きな映画が、好きな場所で、繰り返し観ることができて、映画以外の娯楽がありあまるほど存在する現代日本との違いは、歴然としている。
 先進国ほど映画への熱量が失われていくのは、仕方ないことなのだろう。

 『アラビアのロレンス』を彷彿とする冒頭の砂漠のシーンから始まって、過去の名作映画のカットを想起させる美しい映像は、さすがチャン・イーモウ。
 光と影、線と色彩、静止と運動によってもたらされる映像の魔力は、たしかに映画を愛する者にとって、最高の贈り物である。
 それが「映画愛」というテーマと絡んで、感動を呼ぶ。
 同じような趣向として『ニューシネマ・パラダイス』があるが、映像の美しさは本作が上である。

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 上映中のフィルムが燃えるシーンがある。
 映写技師が素早い対応をしたおかげで事なきを得るが、昔のフィルムはよく自然発火したのである。

1940年代までに映画用あるいは写真用に使われていたナイトレートフィルムは、ベースにニトロセルロースを使っていたため、常温でも非常に燃えやすく不安定であった。そのため、初期の映画の多くは、燃えたり腐食したりして永久に失われた。(ウィキペディア『安全フィルム』)

 日本では戦後、可燃性の低い安全フィルムに置き換わったので、60年代生まれのソルティは、「フィルムが燃える」を体験していない。(80歳以上の人なら覚えているかもしれない。)
 中国では70年代くらいまでナイトレートフィルムが普通だったのだ。

 「フィルムが燃える」を効果的に取り入れた傑作が、林海象のデビュー作『夢見るように眠りたい』である。





おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損