現在、テキスト6科目目の「考古学概論」に取り組んでいる。
レポートの課題がずいぶんとアバウトで、「考古学とはどのような学問か、自由に論じなさい。(6400字程度)」
テキストに書いてあることをまとめて考古学を定義するだけなら、おそらく原稿用紙3枚(1200字)で終わってしまうだろう。
考古学という学問の成り立ちなり、具体的な発掘事例なり、自分なりの視点を入れて、ふくらませなければならない。
と言って、ソルティはたまに古代エジプト関連と邪馬台国関連の情報番組を見るくらいで、考古学には疎い。ピンとくるネタがない。
なにかアイデアはないものかとググったところ、国立歴史民俗博物館(通称、歴博)なるものが千葉県佐倉市にあるのを知った。
「歴史学・考古学・民俗学の調査研究の発展、資料公開による教育活動の推進を目的に、昭和56(1981)年に設置された研究機関」である。
この種の博物館では、おそらく、日本で一番大きく、所蔵資料件数も豊富(約22万件)で、本格的なものと思われる。
自宅から列車で2時間強かかる遠隔地ではあるが、実物資料に接すれば、なにかアイデアが思いつくかもしれない。
連休を利用して出かけた。

京成電鉄・佐倉駅
お隣はもうNRT(成田空港)。
列車内には大きなスーツケースを引きずった旅行客が目立つ。
そう言えば、先頃亡くなった元ジャイアンツの長嶋茂雄が佐倉出身だった。

駅からバス5分、徒歩15分。
佐倉城址の中にあって、緑が多く、広々と気持ちいい。

大分県臼杵摩崖仏のお出迎え。
凝灰岩から彫り出した大日如来像で、平安時代後期の作である。
頭上の突き出た岩が屋根となって、雨水の浸透から像を守っているのだろう。

所要3時間を見越して午後1時過ぎに入館した。
大人600円、学割250円



同日中ならば入退場自由なので、朝から行くならお弁当持参がおススメ。
館内は広く、休日でも混雑は感じられなかった。

先史時代
石器を作る親子。
日本列島に人類がやって来たのは約3.7万年前とされる。
こういったジオラマや映像や体験型ワークショップなど、子供でも楽しめる工夫が随所でなされている。

縄文時代
約1万1千年前から、狩猟・採集・漁労・栽培など自然の恵みを生かしながらの定住生活が始まった。

各地で出土した縄文土器

人骨に含まれているコラーゲンから食生活を推定できるという!
ほかにも、永久歯に固定されたストロンチウム同位体から「在地の人か移住者か」を見分けたり、頭骸骨に特徴的に現われる遺伝的形質から集団の血縁関係の有無を判定したり、考古学に応用されている最新科学技術の粋にたまげた。

縄文犬

山内丸山遺跡(青森)の復元ジオラマ

女性器が刻まれた土器
亡くなった赤ん坊をこの器に入れて埋葬したらしい。
生まれてきたところに戻すという意味合いか?

複数の遺体を埋葬した墓穴
すでに死んだ後に祖霊と一つになるという来世観があった。

弥生時代
紀元前10世紀頃に九州北部で始まった水田耕作は、700年以上かけて関東に到達した。稲作、環濠集落、弥生土器、青銅器・鉄器使用が弥生時代の特徴である。

人の顔が描かれた弥生土器

環濠集落
濠をめぐらした環状の土地に血縁で結ばれた数家族が暮らした。

弥生時代はまた戦争のはじまりである。

発掘された人骨や装身具をもとに復元された女性像。
どちらも現代日本人女性によく見られる顔立ちである。

倭の登場
弥生時代後期になると、各地に巨大な権力と支配域をもつ王が登場し、しのぎを削った。いわば戦国時代。
面白いことに、古代史で最もホットなテーマである邪馬台国に関する展示がここにはない。
首から鏡を下げた卑弥呼さまの像もない!
いまだ考古学的証拠がない、つまり歴史的事実として証明されていないからなのだろうか?

古墳時代
3~7世紀にかけて、日本列島には16万基もの大きさかたち様々な古墳が築かれた。古墳には上記のような埴輪や高価な服飾品が一緒に埋められた。
最終的に前方後円墳に集約されていく過程こそが、ヤマト王権成立の道である。

ここで閉館時間となった。
第6展示室まであるのに、半日かけて第1展示室(先史・古代)しか観られなかった!
この展示室が一番充実しているので仕方ない面もあるが、予定狂いすぎ。
結局、その夜は船橋のカプセルホテルに泊まり、翌日は朝から通った。
が、丸一日いても、江戸時代までで time over
第6展示室(昭和以降と民俗コーナー)は流し観るほかなかった。(しかも、現在第5展示室は改装中で閉鎖している)
ブックコーナーやおみやげコーナーにも寄りたい。佐倉城址も歩きたい。
じっくり観ようと思うなら、まる二日、いや三日は必要である。

奈良時代
平城京の羅城門の復元模型
青丹よし 奈良の都は 咲くはなの
匂うがごとく いま盛りなり(小野老)

お経を筆写する官営工房の職員
この時代は官主導による人民と土地と仏教の管理が進んだ。

平安時代
寝殿造の内部

十二単の女性貴族
束帯(正装)、直衣(普段着)の男性貴族

鎌倉時代
武家屋敷の模型

安土・桃山時代
鉄砲伝来

江戸時代
南蛮貿易で活躍した御朱印船

徳川家康の作った銅活字

古活字版『群書治要』
周囲の枠の交点(角)に空きが生じていれば、木版でなくて活字版である。
書誌学で習ったことの復習ができた。

『宋版後漢書』の東夷伝
これは木版である。
一部拡大すると・・・

ようやっと、ここに「卑弥呼」を見つけたり!

江戸の町
さまざまな職業の町民たちの模型がリアルでこまかい。
オペラグラス必携で楽しみたい。

のぞきからくり
江戸時代中頃にヨーロッパから渡来した。

のぞきからくりの内部

江の島の土産店で売られていた貝で作った孔雀
いまなら相当の値が付くことだろう。

民俗コーナー
村の境界を守る人形
もったいないが、もうこのあたりは流し見。

昭和時代
戦後の貧しい民家
これ、成瀬巳喜男監督×高峰秀子主演『浮雲』で使われたセットだと。

1970年代の学校給食
ソルティがちょうど小学生の時。
ひょっとして令和の今よりゴージャス?

昼食休憩30分をはさんで約6時間立ちっぱなしだった。
が、あっと言う間の閉館時間だった。
やっぱり、歴史学習は楽しい。
考古学、歴史学、民俗学、書誌学、古文書、日本美術、建築史・・・e.t.c.
奈良大学通信教育で歴史文化財を学んでいる学生なら、ぜひとも足を運びたい施設である。
結局、レポートのアイデアはいまだ定まらず。
とりあえず、考古学とは体力が必要な学問である――ということだけは分かった。