1985年東映
130分
現在、東京駅近くの国立映画アーカイブで森田芳光特集が組まれている。
デビュー作『の・ようなもの』(1981)はじめ、出世作『家族ゲーム』(1983)、大ヒットとなった薬師丸ひろ子主演『メイン・テーマ』(1984)と黒木瞳主演『失楽園』(1997)、サスペンスミステリーの傑作『39 刑法第三十九条』(1999)と『黒い家』(1999)など、主要作品がラインナップされている。
80年代映画青年だったソルティにとって、まさに青春時代の映画監督である。
懐かしさも手伝って、未見の『それから』を観に行った。
懐かしさも手伝って、未見の『それから』を観に行った。
もちろん夏目漱石原作である。
国立映画アーカイブ
場内は同窓会を思わせるがごとく同世代男子が多かった
主役の長井代助を演じた松田優作は89年に早逝し、不倫相手の三千代役の藤谷美和子はプッツン女優と騒がれたのち芸能界から姿を消し、代助の書生を演じた羽賀健二は梅宮アンナとのすったもんだののち刑事事件を起こして転落の一途をたどり、代助の父親役の笠智衆は93年に亡くなった。
主要人物のうち今も一線で活躍しているのは、小林薫、草笛光子、風間杜夫くらい。
2011年に亡くなった森田監督の没年(61歳)をソルティは越えようとしている。
時はどこに消え去るのやら?
この年のキネ旬1位をとった映画の出来もまた、時代の変化を感じさせるに十分であった。
むろん、漱石が生きた明治時代が舞台の話だから、すでに公開時(昭和60年)において古臭い内容ではあった。
愛する女に告白せずに彼女の幸せを考えて親友に譲る主人公とか、お互いに惹かれ合っていながら倫理に縛られて一線を超えられない関係とか、欲望追求こそ善の昭和バブルにあって相当ナンセンスなプロットであった。そのレトロ感が、かえって新鮮に映ったのかもしれない。
愛する女に告白せずに彼女の幸せを考えて親友に譲る主人公とか、お互いに惹かれ合っていながら倫理に縛られて一線を超えられない関係とか、欲望追求こそ善の昭和バブルにあって相当ナンセンスなプロットであった。そのレトロ感が、かえって新鮮に映ったのかもしれない。
が、時代を感じさせたのはストーリーそのものではなく、映画のスタイルである。
フィルムのざらざらした質感然り、明治時代のロケセットのリアリティ然り、美術や照明のクオリティの高さ然り、フィルムの巻が変わる直前にスクリーン右上に出る黒いドット(チェンジマーク)然り。
さらには、話のテンポの遅いこと!
テレビドラマだったら45分あれば描けてしまう単純なストーリーを、130分もかけて描いている。
ひとつひとつのシーンが長く、重要な対話シーンではカットそのものが長い。
代助が三千代についに愛を告白するシーンなど、9分半の長回しで、その間、セリフはほんのわずかである。
セリフのない沈黙シーンが延々と続くさまは、まるでタルコフスキーかテオ・アンゲロプロスかカール・ドライヤーの作品のよう。
このゆったりしたテンポ、沈黙(会話の間)の長さは、テレビゲームやファスト映画のテンポになれた令和の若者には耐えられまい。
だが、真のドラマはたいてい沈黙の中で進行する。
それは活字では表現できない映像ならではの特典である。
沈黙の時間の中に、代助と美千代の互いに気持ちを伝えられないもどかしさが見事に描き出されている。
80年代当時、すでに日本映画界は斜陽を通り過ぎて、ヒットするのはアニメと動物映画とアイドル映画ばかりといった寒々しい状況だったと記憶する。
が、溝口や小津や黒澤を先達にもつ日本映画の良心を感じさせる、質の高い、丁寧につくられた、見ごたえある映画が作られていたのだ。
ソルティは洋画ばかりに目が行っていた。
松田優作がいかにすぐれた役者であったことか!
アクション映画だけでなく、文芸映画でもバッチリはまっている。武骨な表情と訥々とした口調のうちに、恋と友情の板挟みになる男の葛藤が色気となって表れている。
小林薫も上手い。
本来なら小林という役者のイメージは、主人公の男にこそ向いている。イメージと異なる、どちらかと言えば暴君な夫を、違和感なく演じている。
二人の男に挟まれる美千代を演じる藤谷美和子は、演技はうまくないが、美しいことこの上ない。演出や美術や照明や衣装の力で、魅力ある女性像に仕立てられている。
やっぱりうまいなあと舌を巻くのは、草笛光子。
市川崑監督の金田一耕助シリーズでみせた役幅の広さが、ここでも発揮されている。名家の嫁としての品の良さと、姉さん女房風の世話焼きの面を矛盾なく造形している。
市川崑監督の金田一耕助シリーズでみせた役幅の広さが、ここでも発揮されている。名家の嫁としての品の良さと、姉さん女房風の世話焼きの面を矛盾なく造形している。
笠智衆が出演しているとは知らなかったので、うれしい驚きであった。
笠が出てくるシーンでは、キャメラは常にローポジションに据えられる。おそらく、森田監督による小津安二郎に対するオマージュであろう。笠さんの姿勢の良さはいかにも明治男らしい。
羽賀研二はイケメンで芝居も悪くない。つくづく、もったいないことをした。真面目に生きていれば、いい役者になっただろうに・・・。
国立映画アーカイブの鑑賞料金は、一般520円、学生310円。
310円で映画が見られるって、ほんと素晴らしい。
学生のうちにたくさん観ておこう。
学生のうちにたくさん観ておこう。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
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