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日時: 2025年10月19日(日)14:00~
会場: 和光市民文化センターサンアゼリア 大ホール
曲目:
  • チャイコフスキー: 序曲『1812年』
  • ヤナーチェク: 『シンフォニエッタ』
  • ハチャトゥリアン: 交響曲第2番『鐘』
指揮: 山上 紘生

 家を出るのが遅れて、2曲目から会場入り。
 ヤナーチェク(1854-1928)ははじめて知った。
 ドヴォルザークと同じチェコの作曲家で、13歳年下である。
 曲の冒頭から、金管楽器と打楽器チームによる勇ましいファンファーレ。
 度肝を抜かれた。

 クラースヌイ・フィルは100名を超える大所帯。
 迫力がすごかった。
 思えば、ソルティがショスタコーヴィチの真価に目覚め、指揮者山上紘生の才能を知ったのは、クラースヌイとの出会いのお陰であった。 
 山上による指導はこれが最後だという。 
 感謝!

 ハチャトゥリアンについては、『剣の舞』と『仮面舞踏会』しか知らない。
 〈1903-1978〉というその人生は、同じソビエトの作曲家ショスタコーヴィチ〈1906-1975〉とほぼ重なる。
 であれば、独裁者スターリンの恐怖政治と粛清の嵐を経験しているはずである。
 ショスタコーヴィチが共産党からの批判を恐れて、自らの個性と才能を犠牲にして、党=スターリンの求める「社会主義リアリズム」の曲を作らざるをえなかったのと同様に、ハチャトゥリアンも葛藤に苦しんだのだろうか。
 そこが聴きどころである。

 交響曲第2番『鐘』がつくられたのは1943年。
 ソ連はナチスドイツとの戦い、いわゆる「大祖国戦争」の真っ只中で、1941年発表のショスタコーヴィチ交響曲第7番で知られる「レニングラード包囲戦」が続いていた。
 多くの芸術家は、好むと好まざると、戦意高揚に役立つ作品をつくることが求められた。敵の非道や残虐を訴え、国民の士気を高め、亡くなった者を追悼し、戦場の兵士を力づけ、最終的な勝利に寄与する作品である。
 それは、アジア・太平洋戦争中の日本も同じことで、木下惠介監督は『陸軍』を撮らされたし、火野葦平は『麦と兵隊』『土と兵隊』を書いた。
 国家総動員とはそのようなものである。
 ハチャトゥリアンもまた、前線の兵士を慰問し、ラジオ放送のための音楽や愛国的な行進曲を多く作曲したという。 
 この交響曲のテーマは、まさに戦争なのである。

宇宙人襲来

 第1楽章は、郷愁をそそる民族的なタッチのもの哀しい主旋律に、聴く者を落ち着かなくさせる不穏な動機がからむ。平和な街に軍靴の響きが近づいて来る。
 敵の攻撃をもって戦いの火ぶたが切られる。
 日常生活は断ち切られ、世界は一変する。

 第2楽章は、戦場そのもの。
 凄まじい爆撃と破壊、恐怖と混乱、大量の死と絶望。

 第3楽章は、レクイエム。
 葬送行進曲が流れ、死者を追悼する人々の嘆きは頂点に達す。
 敵への怒りと深い悲しみ、相反する感情に引裂かれた心は崩壊寸前。
 喪失感は尋常でない。

 第4楽章、人々は再び立ち上がる。
 いつまでも悲しみに浸ってはいられない。国を守るために、愛する家族を守るために、最後の闘いに挑まなければならない。
 やがて、黒雲に蔽われた空から光が差し込み、勝利の兆しが見えてくる。
 やはり、正義は勝つ。
 スターリンと共産党は常に正しい。
 鐘を打ち鳴らして、祖国の勝利を讃えよう!

 構成的には、ショスタコーヴィチの『レニングラード』とよく似ている。
 社会主義リアリズムの枠組みでは、そうならざるを得ないのだろう。
 ただ、ショスタコの第7番が、ナチスドイツの恐怖とそれとの戦いおよび最終的勝利を描いたのみならず、その裏に、スターリンと共産党への批判を隠し入れたと解されるようには、ハチャトゥリアンの『鐘』は政治的隠喩を含んでいないように思われる。
 警告的な響きを伴ったショスタコの第4楽章の凱歌にくらべると、勝利の喜びがストレートに打ち出されているように感じた。
 ハチャトゥリアンは、ショスタコより“体制より(保守的)”だったのかもしれない。

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和光市文化センター・サンアゼリア

 なんだか、時代はどんどんショスタコーヴィチ・モードになっている。
 世界的にナショナリズムが高揚し、欧米でも日本でも排外主義が激化し、保守の台頭が顕著である。
 自国ファーストの掛け声かまびすしい中、強大な権力を持つ独裁者の登場が待望され、歓迎されているように見える。
 人類が数万年の血みどろの試行錯誤の末にやっと手に入れた民主主義と人権が、いまや風前の灯。
 トランプもネタニヤフもルカシェンコも、習近平も金正恩もプーチンも、スターリンの子供たちって点で、右も左も関係なく共通している。
 実際、今のアメリカの状況には、目を覆うばかり。
 これが、自由と希望の国、アメリカなのか! 
 このままだと、自由の女神が倒壊し、砂の中に埋もれるのも時間の問題だ。
 日本も危ない。

猿の惑星