JR逗子駅からバスに乗って、三浦半島の西側を南下すること約30分。
 葉山御用邸、長者ヶ崎を過ぎて、右手に大きく迫る相模湾を見送って、三崎に向かう国道が少し内陸に入ったあたりに、浄楽寺はある。
 正式名称は金剛山勝長寿院大御堂浄楽寺。
 創建は明らかでないが、三浦一族の和田義盛が、奥州征伐の戦勝祈願のため文治5年(1189年)前後に創建したのではないかという説がある。
 であれば、北条時政が伊豆に建てた願成就院と同時期である。

 時政が運慶に本尊・阿弥陀三尊像、毘沙門天像、不動明王像、制吒迦童子(せいたかどうじ)像、矜羯羅童子(こんがらどうじ)像を依頼したのと同様、義盛もまた運慶に5体の彫像を頼んだ。
 それが、今も残る阿弥陀如来像、観音菩薩像、勢至菩薩像、不動明王像、毘沙門天像である。
 建暦3年(1213年)、源実朝や北条義時ら率いる幕府軍によって、和田一族が滅亡したことはよく知られる。(和田合戦)
 2022年放映のNHK『鎌倉殿の13人』では、横田栄司が髭もじゃの武骨で心やさしい義盛を好演していた。

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JR逗子駅
自宅から列車で2時間
4年前に仙元山に登ったとき以来である  

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浄土宗浄楽寺
今年8月に収蔵庫の改修工事が済み、9月1日より、これまで開帳日を設定しての予約制だった仏像の拝観が、常時予約なしでできるようになった。
しばらく前から、このときを待っていた。

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本堂
江戸時代の再建

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本堂の阿弥陀三尊像
内陣の周囲を「南無阿弥陀仏」と唱えながら右繞三匝(うにょうさんぞう、右回りに3周)すると、煩悩の根である三毒(欲・怒り・無知)が消滅するという。
指示通りにやってみたが、駄目だった模様。

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宝池
映画上映会、音楽コンサート、写経会、竹細工づくりのワークショップを催したりと、お寺の開放による地域活性化に取り組んでいる様子が伺える。
宿坊にも泊まれるようだ。

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収蔵庫
ここに運慶仏はおられる。
大人600円

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阿弥陀如来、観音菩薩(右)、勢至菩薩(左)
社務所でポストカードやクリアファイルなどを購入することができる。

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毘沙門天
宝塔を手にしているのに注目。

   見仏雑感    
静かで薄暗い堂内に、5体が寡黙な威厳のうちに居並んでいる。
阿弥陀三尊は、のちの時代に鍍金し直したものと思われる。
金色に輝いて美しい。
昭和34年(1959)に毘沙門天と不動明王の胎内から発見された木札により、運慶が小仏師10人を率いて造像したことが判明した。

阿弥陀如来坐像(像高141.8cm)
どっしりとふくよかな体と、広い胸と左右に開かれた両腕によって作りだされた空間が、像の前に立つ者をあたたかく包みこむ。
くっきりした切れ長の目とピンと張った頬は、興福寺国宝館にある運慶作の木像仏頭に似ている。
面差しは、円成寺大日如来より厳しいが、興福寺北円堂の弥勒菩薩ほどの諦観はなく、壮年期の男子のよう。
流れるような衣の襞が美しい。

観音菩薩立像・勢至菩薩立像(178.8cm、171.1cm)
抜群のプロポーションの良さに感嘆する。
薬師寺金堂の、あるいは福島会津若松の勝常寺の日光・月光菩薩を想起した。
この三尊は、阿弥陀如来のどっしり感といい、勝常寺の薬師三尊(平安前期作)の像容に近い。
なめらかな体の線はセクシーであるが、衣の襞はやや平板で、手を抜いている感がある。

不動明王立像(135.5cm)
かなり表面が傷んでしまって仏師の腕前を確認しにくいのは差し引いても、これは運慶の手は入っていないと思う。
全体に雑なつくりで、反対側の端を守る毘沙門天像との差は歴然としている。
弟子のだれかの手によるものか?

毘沙門天立像(140.5cm)
この像が一番出来が良い。
運慶らしい躍動感、迷いのない彫り跡。
願成就院の毘沙門天より、ひん剥いた玉眼や踏みつけられた邪鬼のなかば恍惚とした表情など、人間的でユーモラスな風がある。
いつまでも観ていられる。

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「日本の郵便の父」といわれる前島密(1835-1919)の墓があった。
浄楽寺境内に建てた如々山荘で晩年を送り、亡くなった。
墓のデザインはここから望める富士山をかたどっている。

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郵便事業の創業以外にも、漢字廃止の建議、江戸遷都を建言、鉄道敷設立案、新聞事業の育成、電話の開始、東京専門学校(のちの早稲田大学)の創立、訓盲院の創立など、日本の近代化のために様々なことをした。

前島密
偉人なのに1円切手は可哀想

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満州事変、支邦事変、大東亜戦争で亡くなった人たちを祀る忠魂碑
相模湾越しの富士山に面している
(昭和49年設立)

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帰りのバス待ち
約2時間の滞在だった。
60分以上、運慶独り占めの贅沢を味わえた。

葉山海岸
天気が良ければ、葉山海岸を歩いて富士山や江の島を見るのも楽し。
今日はあいにくの雨模様で寒かった。

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京急・逗子葉山駅構内にある蕎麦屋さん
前回来た時に見つけた。

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毎朝打ちたての生麵
鰹節・鯖節・宋田節を配合したまろやかで玄妙な出汁
大きなかき揚げ
美味しかった記憶は忘れないものである。