2025年NHK出版新書
現在、NHK教育テレビで『3か月でマスターする古代文明』という教養番組が放送されている。
各回約30分×全12回のシリーズで、以下のようなライナップである。
第1回 衝撃!最古の巨大遺跡 見直される“文明の始まり”
第2回 メソポタミア 都市は“最終手段”だった?
第3回 ヒッタイト “鉄の帝国”のヒミツ
第4回 エジプト ピラミッドと黄金が王国を変えた
第5回 インダス 王も武器もない文明
第6回 中国 “交雑”が生んだ王朝
第7回 原シルクロードと中央アジア 交流と繁栄
第8回 ギリシャとミケーネ ネットワークが育んだ“民主政”
第9回 オセアニア 巨大化する石像の謎
第10回 マヤ 多様性を王国の力に
第11回 アンデス1 ナスカ・地上絵 文字なき世界の道しるべ
第12回 アンデス2 初めに神殿ありき
11/09現在、第6回まで放映済みである。
ちょうど、奈良大学通信教育学部で「考古学概論」のレポートに取り組んでいるソルティにしてみれば、なんつう Good Timing !
毎回録画し、欠かさず視聴している。
ここまでに観ただけでも、「なんだか考古学が凄いことになっている・・・」という実感がひしひしと湧いて来る。
数十年前にソルティが歴史の授業で習ったことや、歴史ドキュメンタリー番組を見て吸収してきた情報が、どんどん塗り替えられていくような印象。
つまり、歴史認識のパラダイムシフトが起きている !?
第1回に出てきたトルコのギョベックリ・テペは、農耕が始まるはるか前、約11,000年前につくられた狩猟採集民の巨大遺跡。
青銅器も鉄器もない時代にキツネやサソリやワシなどの動物が彫られた最大5.5mのT字型の石柱が何本も並び、文明の存在を感じさせる。
青銅器も鉄器もない時代にキツネやサソリやワシなどの動物が彫られた最大5.5mのT字型の石柱が何本も並び、文明の存在を感じさせる。
世界最古の文明はBC3000頃のメソポタミア文明じゃなかったのか!
第3回に出てきたヒッタイト。
古代ギリシャのスパルタと並ぶ強大な軍事力を誇る「鉄の帝国」と習ってきたのに、実際には鉄の大量生産はなかったという。
右翼が好むような帝国主義の単一民族国家かと思っていたら、多民族、多文化、多言語、多宗教の20世紀後半のアメリカみたいな国で、世界最初の和平条約をエジプトと結び、死刑が回避される寛容な統治だったという。
第5回のインダス文明のモヘンジョダロにも驚いた。
整備された道路や大浴場や上下水道が備わった数万人が暮らす都市であったにもかかわらず、王様や軍隊や神殿の存在を匂わせる遺物や遺跡がまったく出てこないという。
いったいどうやって統治していたのか?
農耕革命⇒人口増と貧富の差拡大⇒都市化と権力者の登場⇒国家と文明の誕生、という流れを常識的に思っていたのが、ひっくり返された感。
面白いのは、古代遺跡の解釈をするときに、考古学者を筆頭とする近現代人が、自らの生きている時代の風潮や価値観に影響されてそれを読んでしまう、というナビゲーター(考古学者の関雄二)の指摘。
たとえば、ヒッタイト=鉄の帝国というイメージは、20世紀前半ヨーロッパ列強の帝国主義や戦後日本の鉄工業重視の復興の機運が、誤った解釈を生む一因となった。
すなわち、時代の価値観というバイアスがかかってしまったのである。
考古学は、遺物や遺構や遺跡といったモノを分析し、そこから物語を読んで過去を再構成する学問だが、モノを読むときに読み手の性格や思想傾向や信仰や人生観や期待や欲望などが絡むと、思わぬ誤読をしてしまう。
歴史解釈の難しさを思った。
江戸時代から続く邪馬台国論争や、ヤマト王権の成立すなわち天皇制の始まりに関する議論もこれと同じで、読み手のバイアスに左右されるところが大きい。
最初の天皇は神武と信じている人は、どうしたって(おそらく)4世紀に成立したヤマト王権との時間的齟齬に直面するはずだが、そこは進化論を認めないキリスト教原理主義者と同じような脳の硬直が起こっているのだろう。
邪馬台国が九州か畿内かについても、当地の人間にしてみれば死活問題(大げさか)、卑弥呼クッキーや邪馬台ラーメンの存亡に関わる。
だいたい、日本の歴史学や考古学の人気も、古代史の謎の解明に負っているところが大きい。
中には、「このまま場所が特定されないまま、いつまでも謎であってほしい」と思っている人もいるかもしれない。
最新科学の活用とグルーバルヒストリーの研究成果を謳っている本書も、結局のところ、謎の解明には至っていない。
卑弥呼の墓ではないかと議論されている奈良県の箸墓古墳に、上空からレーザー光線を当てて赤色立体図を作成、古墳の構造に迫る!/「空白の4世紀」に築かれた奈良県の富雄丸山古墳から国内最大の蛇行剣(全長237cm)を発見!/鳥取市にある青谷上寺地遺跡から出土した大量の人骨のDNA解析をして、埋葬された人たちのルーツをたどる!・・・等々、古代史研究の最前線の様子が描き出されてワクワクしないこともないが、結局、「いちばん率のいいのは古墳をあばくことだよな」と思わざるを得ない。
それができない理由としていつも挙げられるのは「宮内庁が禁じている」だが、宮内庁にそこまでの権限があるのか疑問に思う。
国の最高決議機関である国会で「調査する」と決めてはなぜいけないのだろう?
たしかに、先祖の墓が採掘されるのは皇室の人々にとっては不快に感じるかもしれないが、そもそも先祖かどうかも分かっていないのだ。
どこのだれかが分かっていない墓なのだから、皇室云々は関係ない。
むしろ、古墳をあばいたら、皇室や宮内庁はじめ保守右翼にとって都合の悪い事実が判明することを恐れての禁止なのか、と邪推してしまうのも仕方あるまい。
よもや、ピラミッドならぬ古墳の呪いを恐れているとも思えないが・・・・。
天武・持統天皇陵
鎌倉時代の盗掘によって暴かれ尽くした
鎌倉時代の盗掘によって暴かれ尽くした
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損


