2021年ベルギー
72分、フランス語
「小学生の頃が一番楽しかった」
「あの頃に戻りたいなあ」
――なんて、つい思ったり口にしたりするけれど、よくよく思い出してみれば、実際には日々学校ではいろいろな出来事があって、楽しいことばかりではなかった。
午後の音楽の時間に使うリコーダーを持ってくるのを忘れて午前の授業中ずっと「どうしようか」思い悩んでいたり(ヒステリックな女の先生だった)、クラスのイジメっ子に「明日100円持ってこい」と脅かされたり、下校中にズボンの尻が破れてしまったのをバレないように歩くのに苦労したり、お気に入りの消しゴムがなくなった次の日に同じ消しゴムを前の席の人が使っているのを見たり、放課後に大便が我慢できなくなってクラスから離れた校舎の個室を使っていたら、上から覗いた上級生に冷やかされたり・・・・。
どれもこれも大人の目から見たらささいな出来事だが、子供にとっては小さな心臓がバクバクするような、しんどい出来事だった。
クレヨンしんちゃんみたいに面の皮が厚かったり、ちびまる子ちゃんみたいにやり返すことができたり、磯野カツオみたいにマイペースで要領のよい性格だったら良かったのだが、ソルティは気が小さくて、恥をかくのが嫌で、人に相談できないタイプの子供だったのである。
公立の小中学校はいろいろな背景ある家庭からやって来る、いろいろな生活レベル・知的レベルの子供が集まる、まさに社会の縮図のようなところである。
大学進学率の高い地域の高校に入って、自分と同じような知的レベルの、乱暴でも野蛮でもない同級生に囲まれて、ようやっと修羅場をくぐり抜けたような気がしたものだ。
そのぶん、突拍子もない面妖な事件が減ってつまらなくなりはしたが・・・。
総じて、学校時代は子供にとっての“世界”はそこだけで、嫌なことがあっても逃げるという選択肢が考えられず、またたとえ選択肢が与えられたとしても、そこから逃げることで人生から脱落するような怖さが先立って、たとえ苦しくとも“世界”にへばりつこうと頑張ってしまう。
親をはじめとする周囲に弱みを見せまいとこらえてしまう。
子供たちの作りだす“世界”が、子供視点で描かれている。
「校庭(Playground)」という邦題は上手い。
小学校に入学したばかりの7歳の少女ノラが日々体験する出来事が、手持ちカメラによる撮影によって、生々しい臨場感と子供の背丈から見る世界の狭隘感をもって、映し出される。
そこで描かれるのは、ソルティの小学生時代の体験なんか屁と思えるほどの残酷な天使のテーゼ。
ひとりぼっちで弁当を食べる泣きたいほど心細い時を経て、一緒に遊ぶ友達ができて、やっと学校に馴染めてきたノラが目撃したのは、優しくて頼りになる、大好きなお兄ちゃんが日々虐められている姿であった。
戦場は、ガザ地区やウクライナやミャンマーに行かなくとも見つけることができる。
地域の小学校の校庭で日々繰り広げられている。
地獄は日常に潜んでいる。
“世界”の縮図がここにある。
本作は第74回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
