2025年イギリス
115分

28年後

 人間を狂暴化させるウイルスが発生してから28年後の英国を描くサバイバル・ゾンビホラー。
 『28日後...』(2002)、『28週後...』(2007)に続く3作目である。
 前2作は観ていない。

 ゾンビ映画興隆の着火点にして金字塔となったジョージ・A・ロメロ監督『ゾンビ』(1979)をリアルタイムで観て以来、ソルティのゾンビ映画鑑賞歴もずいぶんになる。
 いろいろな国で作られた、いろいろなタイプのゾンビ映画を観てきた。
 ロメロ監督ゾンビ3部作を嚆矢とし、大ヒットした韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』に至る、ホラー&パニック&バイオレンス&グロの揃った“正統派”ゾンビ物。 
 80年代にキョンシーブームを巻き起こした『霊幻道士』シリーズ。
 ゾンビ以上に厄介で逞しい生命力を誇る「オバタリアン」を生み落とした『バタリアン』。
 ゾンビコメディの傑作『カミンアウト・オブ・ザ・デッド』。
 換骨奪胎の純文学系ゾンビ『高慢と偏見とゾンビ』
 超脱力系の伝説的カルトムービー『死霊の盆踊り』。
 学園ミュージカル仕立ての『アナと世界の終わり』。
 そして、ゾンビホラーがいつの間にか映画の“復活”を告げる感動ドラマに成り変わる『カメラを止めるな!』。
 これだけ豊かで奇想天外なバリエーションを生み、映画ファンを楽しませてくれたゾンビ諸君に感謝するのみ。

 が、還暦も過ぎたことだし、もうゾンビ映画は“卒業”します。

 ――と殊勝気なことを思わせたのが、この『28年後...』という映画である。
 とにかく、残虐とグロテスクが尋常でない。
 CGや空撮用ドローンやスマホカメラを縦横無尽に使った映像の迫真性、昨今の特殊メイク技術の凄まじいリアリティ、コンピュータゲーム世代のスタッフらの暴力描写に対する感性(の麻痺)は、もはや昭和世代のソルティにはついていけない。
 『28年後...』を観たあとにロメロの『ゾンビ』を観たら、おそらく、リニアモーターカーと鈍行列車の違いくらいのギャップを感じることだろう。

 加齢とともに肉食を敬遠するようになったこともあるかもしれない。
 もともと、肉はあまり好きでなかったが、胃腸の働きが弱くなったせいか、肉を食べると消化が良くない。
 体が重く感じる。 
 どんどんヴェジタリアンに近づいていっている。
 ヴェジタリアンもゾンビ化するのか?
 ・・・・・。
 ともあれ、もう暴力シーンとグロシーンはできるだけ避けたい。

ビーフジャーキー

 ただ、この映画には2点ほど、語りざるを得ないところがある。
 ひとつ目は、ただの“正統派”ゾンビ映画のように見えつつ、ソルティが定義するところのウミウシ映画の匂いがするのだ。
 ウミウシ映画とは

観ているうちに「一体、なにこれ?」と頭の中が疑問符だらけになり、予想のしようもない明後日方向のシュールな展開にあぜんとし、見終えた後もなんと人に説明していいか分からない類いの、ジャンル分けを拒む映画。

 とりわけ、元医師ケルソンを演じるレイフ・ファインズが登場するあたりから、なんか明後日の方向にストーリーが進んでいく。
 ゾンビを焼いたあとの骨を集めて作った柱の森とか、頭蓋骨で作ったオブジェのような塔とか、『地獄の黙示録』のクルツ(=マーロン・ブラント)あるいはカルロス・カスタネダの本に出てくる呪術師ドンファンを思わせるケルソンの異様な風貌とか、『メメント・モリ(死を思え)』という哲学タッチのセリフとか、グロテスクが「聖なるもの」に転換する錯覚を招き起こす。
 主人公の少年のイニシエイション・ストーリー(成長物語)みたいなニュアンスもある。
 このあたりは気になるなあ。

 ふたつ目は、そのレイフ・ファインズの演技である。
 これが『教皇選挙』の首席枢機卿を演じたのと同じ人物なのかと目を疑うほどのキャラクターの違い。
 上質な赤い僧衣に身を包み金の十字架を胸に下げた気品と威厳ある枢機卿と、真っ黄色のヨードチンキを全身に塗りたくった野蛮人のような変人医師。
 よくもこれだけ異なるキャラを続けざまに演じられるものと感心する。
 まあ、賢者風で慈悲深いところは共通しているか。
 ここにきてレイフ・ファインズ、完全開花といった感。

 『28年後...』は3部作らしく、すでに2部目の『28年後... 白骨の神殿』が完成していて、2026年1月に英国公開される。
 “卒業”したつもりが、“復活”してしまうかも・・・・。 


ゾンビ集団



おすすめ度 :★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損