2024年地平社

 こうしてブログを綴ってはいるものの、ITには疎いソルティ。
 ツイッターもとい「X」はやっているが、ほぼブログへの呼び込みになっている。
 LINE、フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブには興味ない。
 昨今、パソコンやスマホからでないと、コンサートのチケットも新幹線の切符も宿の予約もとれないので、仕方なくネットを利用しているが、クレジット購入というものに今ひとつ信用が置けない。
 商品を購入する際、住所や電話番号やクレジットカードのセキュリティコードなどの個人情報をPC画面に入力するとき、一抹の不安を覚えざるを得ない。

 そんな昭和オヤジ丸出しの状況でありながら、現在のITをめぐる世界的動向、とくに巨大IT企業がどれだけ世界を支配しているか、ITがどれだけ市民の生活に入り込み個々人を監視しているかという点について、これまた疎いままであった。

 本書は、巨大IT企業(ビッグ・テック)による最新技術を用いた監視と搾取のシステムについて国際的視野から現状を伝え、民主主義と人権を守るためにビッグ・テックと闘う各国の人々の姿を描いたノンフィクションである。
 著者の内田聖子は、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)の共同代表をつとめ、自由貿易協定やデジタル政策のウォッチ、政府や国際機関への提言活動を行っている。
 副題は「ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会」

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 恥ずかしながら、はじめて聞いた(知った)言葉が多かった。
 ビッグ・マックならぬビッグ・テック(Big Tech)=巨大IT企業もその一つだが、以下も今回はじめて意味を知った。
  • GAFAM
    Google(Alphabet)、Apple、Meta(旧Facebook)、Amazon.com、Microsoftの5社

  • 監視資本主義(surveillance capitalism)
    企業による広範な個人データの収集・分析を指す政治経済学の用語。分析結果に基づいて、個人仕様に選ばれた広告が表示されたり、特定の商品やサービスが推奨されたりする。目的はもちろん、企業がより多くの利益を得ることにある。

  • データブローカー
    個人の情報を収集、整理し、第三者に販売する企業や組織のこと。日本で言う「名簿屋」がこれに当たる。

  • スマートシティ
    IT・デジタル技術の活用により、都市の機能やサービスを効率化・高度化し、課題解決とともに快適性や利便性を高める都市開発のあり方。たとえば自動運転やドローンを用いた自動配達、カメラやセンサーによる騒音や人流の把握、医療や教育の遠隔化、行政サービスのIT化など、実装される技術は多岐に渡る。(本書より引用)

  • プラットフォーム労働
    アプリなどのデジタルプラッ トフォームの仲介により、個人や組織間で労務を提供する形態の労働。よく知られるものに、Uber Eatsクラウドワークスなどがある。

  • コンテンツ・モデレーター
    インターネット上のコンテンツが安全で適切に保たれるように監視する職業。
 インターネット上のプラットフォームやアプリは、基本的にユーザーが暴力やポルノ、差別シーンを目にしないように設計されている。ユーチューブにもXにもフェイスブックにも倫理基準があり、「問題あるコンテンツは削除」されることになっている。実際、これら企業はソフトウェアを使い、問題コンテンツを自動的に削除するようにしていて、AIの導入によってこの作業は飛躍的に効率化された。
 しかし、AIのフィルタリング・システムは完璧ではない。「親指の写真と男性器の写真をAIはうまく区別できない」という有名な例がそれを象徴している。現時点ではAIだけにネット空間の「適正化」を任せることは無理であるため、各プラットフォーム企業はAIでは対応できない「判断」をする「人」を必要としているのだ。
 私たちが当たり前のように享受しているインターネット世界の倫理性を最終的に支えているのが、・・・略・・・コンテンツ・モデレーターの手作業だ。

 コンテンツ・モデレーターたちは、毎日毎時間、世界中からネットにアップされるリアルな残酷映像やエログロ映像や小児虐待映像などを見続けているわけで、これが心の健康にとって良くないのは言うまでもない。
 ゾンビ映画を観てキャーキャー言ってるのとは、まったく違うレベルである。

混乱する男

 本書は、GAFAMを筆頭とするビッグ・テックが牽引するデジタル経済モデルにおいてすでに起きている、国家権力による監視や管理、プライバシーなどの人権侵害、偽情報やフェイクニュースの蔓延、差別や貧困の再生産などの様相を、さまざまな事例を出して示している。
 また、ビッグ・テックが、情報インフラの独占や莫大な資金を投入しての政治家へのロビー活動によって、市場や政治をいかに支配しているかが語られる。

 日本ではまだITの利便性のみが謳われ、人々は無料のアプリのダウンロードと引き換えに個人情報を進んでIT企業に渡しているし、街のあちこちに設置されている顔認識カメラによって自らの姿が知らないうちに記録され解析されることについても反対の声が聞こえてこない。治安維持の為なら仕方ないと思っているのかもしれない。
 だが、こうした位置情報を含む個人情報が権力の手によって悪用されると、実に怖ろしい監視社会に成り変わるのは、中国の例を見れば明らかである。
 ビッグ・テックが国家権力と結びついた“生き地獄”を描いたのが、ジョージ・オーウェル著『1984』であり、テリー・ギリアム監督『未来世紀ブラジル』であった。
 『1984』や『未来世紀ブラジル』の世界を現実化してしまったのが、今の中国であろう。(昨今、中国人の悪口ばかりやたら聞こえてくるが、ソルティは中国人は可哀想としか思えない)
 日本も気を付けないと、同じような道を歩みかねない。
 ナショナリズムの行き過ぎは国家権力の増大につながり、民主主義の危機を招くからである。

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MollyroseleeによるPixabayからの画像

 「やっぱり、欧米は違うな~」と思ったのが、こうしたビッグ・テックの横暴に対して抗議の声を上げて立ち上がり連帯する市民の存在である。
 本書には、国家による監視への抵抗、ビッグ・テックの監視広告への反対、消費者(とくに子供や若者)がオンライン・ゲームやSNSによって精神的ダメージを受けないよう規制を求める運動、プラットフォーム労働者らによる組合結成運動など、市民社会が中心となった抗議活動の様子が描かれている。
 不当解雇を訴えてたった一人でAmazonに立ち向かった、元倉庫労働者のクリス・スモールズの話など、そのうち映画にでもなりそうな勇敢物語である。
 欧米の人々に根付いている人権意識と民主主義に対する信念は筋金入りだ。
 やはり、市民革命を経験しているからであろうか?
 あるいは、一神教をバックボーンに持つ個人主義のせいであろうか?

 ソルティが、現在高市政権のもと進行しているナショナリズムを危惧するのは、日本人には元来、人権意識と民主主義への信念が不足している、と思うからである。
 おそらく、その二つのものが敗戦によってGHQ=アメリカから与えられたもので、自ら勝ち取ったものでないというところに、因があるのではないかと思う。
 街頭でデモをする人々を“特殊な人、めんどくさい人”と遠目に見たり、「就職の妨げになるから政治活動には関わらない」という若者の声を聞いたりすると、いったい日本国憲法下の戦後80年間の教育ってなんだったんだろう?・・・・と思ったりする。

 ひょっとしたら、先進国では、日本人くらいビッグ・テックにとって“いい”お客さん=餌食はないんじゃなかろうか?
 中国に侵略される脅威をしきりに訴えているうちに、GAFAMに骨の髄まで支配される日常に馴らされてしまうんじゃないか?
 
 少なくともソルティは、今後しばらくはAmazonでの買い物を控えることにする。
 



おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損