2020年日本
126分

MOTHER

 2014年3月に埼玉県川口市で起きた17歳の少年による祖父母殺害事件、そして同事件を取材した毎日新聞記者山寺香が書いた『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』をもとに作られた作品。
 ソルティは同事件を覚えておらず、山寺の本も読んでいない。
 「こんな事件があったんだ」という驚きとともに、2014年当時の自分の脱世間ぶりにおののいた。

 少年は母親にそそのかされて祖父母を手にかけたらしい。
 普通17歳にもなれば善悪の判断はつくし、損得も判断できる。
 母親に指示されたからと言って、人を殺める息子などありえない。
 それも、ほとんど親交のなかった自らの祖父母を金目的で殺すなんて。
 しかも、捕まった当初、少年は母親から指示されていたことを否定した。
 母親を守るために。

 少年は、子供のときから学校に行かせてもらえず、離婚した母親にあちこち連れ回され、養父に虐待され、公園で野宿するなど悲惨な暮らしを送らされていた。
 その中で無力感に追いやられ、母親にマインドコントロールされた状態になっていたのである。
 彼にとってはMOTHERが世界のすべてだった。
 本作は、事件が起きるまでの母親と少年の十数年にわたる日常生活、そこで築かれた異様な母子関係を時系列で描いている。

夜逃げする母子

 MOTHER(母親)を演じる長澤まさみが凄い。
 本作でアカデミー最優秀主演女優賞を獲ったが、それも納得の猛演技。
 最初のうちはあまりの美貌と抜群のプロポーションが、生活破綻した貧困女性に扮するには不自然すぎるという気がしたが、そのうちにその美しさが逆に怖さを生みだすのに益しているように思えてくる。
 聖母のように美しいがゆえに、周囲の男達は簡単にだまされ手なずけられてしまい、息子もまた逆らい難いものを感じてしまうのだと。
 美しさが凶器になっているのである。
 長澤は、『黒い家』の大竹しのぶ、『誰も知らない』のYOUとはまた違った毒母像を生み出すのに成功している。

 少年を演じているのは奥平大兼。(子供時代は郡司翔)
 2003年生まれなので、撮影当時ちょうど17歳。
 事件を起こした時の少年と同年齢である。
 母親との関係に閉じ込められ、MOTHER以外の世界を思い描けず、奴隷のような無力感を生きる息子の表情と雰囲気を、見事に醸し出している。

 チャランポランな養父を演じる阿部サダヲの上手さは相変わらず。
 この長澤まさみと阿部サダヲの巻き散らす厄介加減が、行政はじめ周囲の大人たちが介入して少年と妹を救いだすのを妨げていたことが、十分納得できる。
 
 事件に至るまでの推移を淡々と描いていく大森監督の演出も冴えている。
 変にドラマチックな演出を取り入れないことで、ドキュメンタリー性が加味されるとともに、母親と少年の関係に観る者の焦点が向く。
 少年が祖父母を刺し殺す場面では、まったく暴力シーンを映し出さない。
 出血サービスも、少年のシャツについた返り血だけの絵で済ませている。
 この抑制力、さすがベテラン監督である。

 どう頑張っても後味のいい映画にはならないので、感動したとは素直に言い難い。
 だが、この衝撃をそのまま胸に受け止め、現実から目をそらさないでいることが、大切なのだろう。

 実際の少年は、懲役15年の判決を受け、現在も服役中。
 母親は強盗罪で裁かれ、懲役4年6ヵ月の勤めを終え、“社会復帰”している。



おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損