2023年ブータン、フランス、アメリカ、台湾
112分
『ブータン 山の教室』でデビューした監督の2作目。
前作同様、ブータンの地方村の自然に囲まれたのどかな風景と、昔ながらの落ち着いた暮らしぶりが描かれている。
いいなあ~。
ソルティは還暦を過ぎた今、海外旅行には興味薄れているのだが、ブータンだけは行ってみたいなあと思う。
首都ティンプーは、ドルジ監督の前作で描かれていたように、近代化が進んで、もはや日本の都市と変わらない有り様のようだが、田舎に行けば“昔の日本”にタイムスリップした感覚を味わえるんじゃないか。
“昔の日本”がいつ頃なのか、しかと分からぬが。
1980年代には、「台湾に行けば“昔の日本”と出会える」という謳い文句を旅行雑誌によく見かけた。
ホウ・シャオシェンの映画を観ながら台湾に憧れたものだ。(結局、行く機会を逸した)
ホウ・シャオシェンの映画を観ながら台湾に憧れたものだ。(結局、行く機会を逸した)
2018年秋に四国遍路で出会った台湾の青年の話では、台湾では開発が進んで環境破壊が社会問題になっているとのこと。
“昔の日本”も失われてしまったかもしれない。
本作は2006年のブータンの山奥の村が舞台。
前年に第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクが、退位と選挙制による民主化(立憲君主制)への移行を表明したため、2007年にブータン初の総選挙が行われることになった。
選挙や議会がどういうものか想像もつかない村人たちのために、役人たちは地方を回って模擬選挙を実施する。
そこで起こる混乱やハプニングをユーモラスなタッチで描いた作品である。
模擬選挙の実施を前に、村中から敬われている老僧はひとつの決断をし、弟子に申し付ける。「鉄砲を2丁用意せよ」弟子は山を下りて、村中を巡って、鉄砲を探す。一方、銃コレクターの米国人は、南北戦争時代の古い鉄砲を村人が所有していることを知り、破格の高値でそれを買おうと試みる。鉄砲は、老僧を敬愛する持ち主によって、無償で弟子に手渡された。弟子に先起こされた米国人は、彼を追って山に登り、老僧がとり行う儀式に参列することになる。いったい、老僧は何を考えているのか?
儀式とは何なのか?
まず、西洋人をはじめとする世界各国の人々が命をかけて闘って勝ち取ってきた民主主義が、ブータンでは国王から与えられたというところが面白い。
国民の多くは国王に対する深い敬愛の念を持ち、今の制度や生活に満足していた。
取りたてて変化は望んでいなかった。
上から与えられた民主主義なのである。
君主制と民主制、どっちが国民にとって良かったのか。
結果はこれから先に見えてくるのだろう。
ブータンの仏教も興趣深い。
国民の多くはチベット仏教を信仰している。
チベット仏教は、テーラワーダ仏教(小乗仏教)、大乗仏教、密教、タントラ、土着のボン教、転生活仏(ダライ・ラマ)などをごった煮した「仏教の総合デパート」みたいな、よく分からないものなのだが、とりわけ、インドの後期密教に由来するタントラ色(性的要素)の強さが、現代日本人からするとビックリ仰天である。
ブータンではいまも男根信仰が一般的で、力のシンボルとして、あるいは魔除けとして、男根を家の外壁に描いたり、簡素化したオブジェを軒先に吊るしたりすると言う。
本作においても、老僧がとり行う重要な儀式の際に、立派な男根のオブジェが用いられる。
このオブジェの最終的な行方には吹き出した。

秩父巡礼で通った金精大明神
日本でもかつては男根信仰がよく見られた
日本でもかつては男根信仰がよく見られた
本作を観たあと、TVで現在建設中のリニア中央新幹線の映像を観た。
最高時速500kmに及ぶ超電導磁気浮上式リニアモーターカーで、東京ー名古屋間を40分で結ぶ。
開業は2037年以降の見込みという。
移動経過そのものが旅の楽しみの一つであるソルティにしてみれば、東京-名古屋を40分で移動することに「何の意味があるの?」という感じしか持てない。
原則トンネル内を走るので、外の景色もほとんど見られない。(時速500kmでは富士山も楽しめまい)
「いや、仕事で使えるでしょ?」と言う声もあろうが、インターネットやZOOMがある現在、高い経費を払ってわざわざ移動したり出張したりする必要があるのだろうか?
はたと気づいた。
ソルティが求めている“昔の日本”とは、つまるところ、「時間の豊かさ」を意味しているのだ。
なにものにも追われない、ゆったりとした濃密な時間。
過去にも未来にもせかされない「今ここ」の生。
目の前の相手だけが大切な、一期一会のこころ。
茶道に通じるようだが、なんのことはない、誰でも知っている子供の頃の日常である。
最適化とか効率とか費用対効果とか役に立つ付き合いとか、そういった功利的な概念に冒されない世界でこそ味わえる時間の豊かさ。
この映画に出てくるブータンの田舎の人々は、そういう時間を生きているのである。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損


