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日時 2026年1月18日(日)15:00~
会場 埼玉会館・大ホール
曲目
  • チャイコフスキー:歌劇 『エフゲニ・オネーギン』より“ポロネーズ”
  • チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ長調 op.23
  • ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
  • アンコール:尾崎豊 『I LOVE YOU』
ピアノ: ジョージ・ハリオノ
指 揮: 太田弦
管弦楽: 東京交響楽団
  
 チャイコフスキーとラフマニスキーの一番有名なピアノ協奏曲のカップリング。
 なんて贅沢でファビュラスなプログラムだろう!
 それをチャイコフスキー・コンクール第2位の24歳のイケメン英国人ピアニストが演奏し、プロオケ総なめの赤丸急上昇の若手指揮者が指揮するとあっては、期待しないほうが無理というもの。
 開演1時間前に会場に到着し、静かなスペースを見つけて奈良大学通信教育『考古学概論』の勉強をしていた。

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埼玉会館

 1曲目はインスツルメント。
 太田弦の指揮は、2017年10月のOB交響楽団との共演、2019年10月の慶応ワグネル・ソサエティー・オーケストラとの共演、過去2回聴いている。
 精密機械のような精度と正確さ、ゴブラン織のタペストリーのような繊細で美しい仕上がりが、太田の持ち味と感じた。
 久しぶりに聴いて、その印象は間違っていなかったことを確認した。
 きびきびと正確に、繊細な配慮をもって、オケを先導していく。

 2曲目のチャイコは、ジョージ・ハリソンもといジョージ・ハリオノという英国人ピアニストの指鳴らし(ウォーミングアップ)という感じ。
 テクニックの高さと、“優しい雨だれ”とでも形容したい奏者の性格の表れのような音色と、日本人受けする貴公子然とした穏やかな風貌が、刻印された。
 途中、“優しい雨だれ”が脳を叩くマイルドな感触に気持ちよくなって、ウトウトしてしまった。

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Sue RickhussによるPixabayからの画像

 休憩後のラフマニノフ。
 圧巻であった!
 この曲の第1楽章を聴いて、2014年2月ソチ・オリンピックの浅田真央のフリーの演技を思い起こさない日本人がはたしているだろうか?
 マーラーの交響曲第5番第4楽章を聴けばヴィスコンティ『ベニスに死す』が想起されるように、リヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』を聴けばキューブリック『2001年宇宙の旅』が想起されるように、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第1楽章は、浅田真央の魂のスケーティングと完全に一体化してしまった。
 オケの上手さやピアニストの腕前を超えて、その記憶が感動を呼び起こす。
 前席の御婦人連がハンカチで目を抑えていたが、やはり、ソチの真央を思い出したのだろう。
 ソルティもウルッと来た。

 第2楽章で、ハリオノの実力が完全に開示された。
 強い音も弱い音も、速い音もスローな音も、すべて“優しい雨だれ”で統一されているのだが、雨の色にヴァリエイションがあった。
 曲調に合わせて、雨の色が七変化した。
 無色透明のH2Oから、クリスタルに、銀色に、黄金に、虹色に、エメラルドに、真珠色に。
 同じピアノ、同じ指先から紡ぎ出されているとは信じ難い多様さがあった。
 ラフマニノフの音楽の美しさの真髄に触れた思いがした。

 第3楽章では、太田弦の実力と成長ぶりが開示された。
 正直ソルティは、太田弦が、なぜこんな若くしてプロオケを次々と振れるのか、不思議で仕方なかった。
 指揮者の世界の序列とか出世街道というのがよく分からないのだが、ソルティが高く評価し贔屓する和田一樹だって、40歳になってやっとメジャーなプロオケから声がかかるようになったというのに、太田弦ときたら20代でNHK交響楽団や読売日本交響楽団をはじめ日本の有名オケと共演し、地方のプロオケの首席指揮者なんかに抜擢されている。
 指揮者界のサラブレット?
 強いバックがついている?
 過去2回聴いた太田の指揮に別に不満があるわけではないけれど、落語家が「前座見習い」から始まって、「前座」から「二ツ目」を経て、少なくとも10年は修行してやっと「真打ち」になれるのと比べると、指揮者の出世街道は分かりにくいなあ。

 ともあれ。
 第1、第2楽章では、ハリオノのピアノを十全に引き立たせるべく抑えた音作りに終始していたものが、第3楽章でオケが前面に乗り出し、ゴブラン織のタペストリーの中に“優しい雨だれ”も編み込んでしまった。
 すなわち、太田弦の音楽の中にハリオノを吸収し、見事なアンサンブルを成立させた。
 「これがプロオケを唸らせる実力か・・・・」
 6年間の太田の成長ぶりに刮目した。

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 アンコールは、なんと尾崎豊の “I LOVE YOU”
 これが実に繊細で美しく、切なかった。
 ソルティは世代的に、尾崎豊にも彼の曲にもほとんど惹かれなかったのだが、ハリオノのピアノを聴いてたら自然と泣けてしまった。
 貴公子風イケメンの上に、観客の琴線をつかむ賢さ。
 この男はきっと日本で人気沸騰するね。
 そう予言する。

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浦和駅前のネオンサイン