1953年新世紀映画&重宗プロ
101分、白黒

雲流れる果てに

 ベストセラーになった同名の手記をもとに、学徒出陣の特攻隊員たちの最後の日々を描いた戦争映画。
 家城巳代治(いえき みよじ)は、美空ひばり主演『悲しき口笛』でもっとも知られる監督である。

 天皇とお国のためにすべてを犠牲にして戦った特攻隊員を美化するでもなく、消耗品のごと使い捨てられる彼らの生を憐れむでもなく、国や軍隊の非道や非人間性をことさら強調するでもなく、さまざまな個性を持ったありのままの青年たちの姿を描いた青春群像劇の感が強い。
 つまり、右寄りでも左寄りでもない、現実寄りの庶民寄り。
 『きけ、わだつみの声』や『永遠の0』をはじめ、日の丸特攻隊をテーマにした映画はたくさんある。
 ソルティはほとんど観ていないのだが、おそらく、本作に勝るものはないと思う。 
 以降、特攻隊の映画を観るときは、本作にどれだけ届くかどうかで判定されることになろう。
 
 優秀な航空兵であり周囲から人望の篤い大瀧中尉(鶴田浩二)。
 自分たち置かれている理不尽な状況について悩みを深める深見中尉(木村功)。 
 肝はこの学徒2人の友情にある。
 戦艦大和が撃沈され、米軍の本土上陸が迫る中での学徒出陣。
 もはや負け戦であることが誰の眼にも明らかになった――が、誰の口からもそれは言ってはならない――状況下での特攻指令は、「犬死にせよ」という命令に等しい。
 「これはもう戦術じゃない」
 ひとり苛立ち鬱屈する深見を、大瀧は叱責する。
 「戦争は理屈じゃない。生命の燃焼だ。人間の根源的な情熱なんだ。悠久の大義に生きる。個人の生死を超越した民族的な情熱の自己同一なんだ。元来、俺たちの命は天皇陛下からお預かりしているんだ。」
 幼いころから植え付けられ、学校で耳にタコができるほど浴びせられた教訓を、さも真実のように滔々と語る大瀧。
 深見の気持ちは親友にさえ理解されない。

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鶴田浩二と木村功

 その深見が最終的には自ら進んで特攻志願するようになる。
 決断に至るまでの一連のシーンの美しさと悲痛は比類ない。
 映画作家としての家城監督の腕の冴え、鶴田浩二と木村功の演技の素晴らしさ。
 そこに芥川也寸志のマーラー風の玄妙な音楽がかぶさる。
 日本映画史における名シーンの一つと言っていい。

 大瀧と深見らはゼロ戦に乗って沖縄出撃する。
 指令室にいて、部隊からの通信が途絶えたことを確認した上官らは口々に言う。
 「思ったよりいかんな」
 「まだまだ技量未熟だ」
 「なに、特攻隊はいくらでもある」
 カット切り替わって小学校の教室。
 女性教師の弾くオルガンに合わせて『箱根八里』を合唱する子供たち。
 このラストシーンが、家城監督があえて仕込んだ最大のプロテストであろう。

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 惜しむらくはフィルム劣化。
 デジタルリマスターしたバージョンでスクリーンで観たいものだ。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損