1993年フランス、ベトナム
104分、ベトナム語

青いパパイアの香り

 1950年代のサイゴンが舞台。
 地方の貧しい家からサイゴンの商家に奉公にやって来た少女ムイの成長を描く。
 色彩つややかで、流れるようなキャメラ回しが上品で美しい。
 ベトナムの屋内の空気感がリアルな日常生活のうちに見事に再現され、映画だけが与えてくれる至福の境地に観る者を誘う。
 セリフを最小限にしぼったこともまた、それを可能ならしめた。
 撮影はブノワ・ドゥローム。

 少女時代のムイを演じるリュ・マン・サンの無垢な瞳が印象的。 
 観る者は、純真な心をもつ働き者の少女の幸を願わずにはいられない。
 現代のベトナムはどうか知らないが、少なくとも令和の日本なら、年端も行かない少女を学校にも通わせず朝から夜まで働かせるのは、間違いなく児童虐待に当たる。たとえ、雇い主が優しい女将であったとしても。
 でも、観ていてなぜか児童虐待という気がしない。
 それはおそらく、ムイが日々の生活の中に“しあわせの種”を見つけるのが上手いからであろう。
 エサを運ぶ庭の蟻んこ、びっしり詰まったパパイアの種、求愛する壁のコオロギ・・・・。なんてことのない自然の光景が、ムイの心をとらえ、好奇心と喜びで満たす。
 逆に、雇い主の次男坊は熱した蝋を蟻にたらして自らの憂さを晴らし、三男坊はムイの仕事の邪魔をすることで退屈を紛らわす。
 子どもにとっての幸せは、大人の考えるそれとは違うのである。
 けれど、人は大人になるとそのことを忘れてしまう。

 成人してからのムイを演じるトラン・ヌー・イエン=ケーは、ユン監督の実生活上のパートナーとのこと。
 ここでは、キャメラは、つつましさの奥に潜むムイのなまめかしさを映し出すのに成功している。
 ピアノの音や雨音の使い方も上手い。
 ムイは、少女時代の初恋の男と結ばれる。 

 筋書きは単純極まりない。
 真のドラマは、プロットの起伏のうちにあるのではなく、人の心の綾を丁寧にひろっていく中にある。
 小津安二郎、かく語りき。

いたずらに激しいことがドラマの面白さではなく、ドラマの本質は人格を作り上げることだと思う。

 その是なることを証明する傑作である。
  
小津安二郎
小津安二郎監督



おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損