2013年講談社
少女漫画の両巨頭といったら、里中満智子と美内すずえではなかろうか。
萩尾望都や竹宮恵子、または山岸涼子や大和和紀、あるいは『ベルばら』の池田理代子を押す声も聞かれそうだが、小学生から大人までの幅広い世代に長く愛され、大方の読者の日常生活とリンクするレベルの恋愛や活劇を、抜群のストリーテリングとわかりやすいコマ割りで描いた、いわば手塚治虫の衣鉢を継ぐ王道路線を行く作家として、里中と美内は抜きん出ているように思う。
ソルティはこの2人のコミックを、妹やクラスメートの女子から借りて、小学生の頃から好んで読んでいた。
里中の作品では、『アリエスの乙女たち』、『あした輝く』、『スポットライト』、『クレオパトラ』が記憶に残っている。
中でも『クレオパトラ』は、持統天皇の生涯を描いた『天上の虹』、『女帝の手記―孝謙・称徳天皇物語』、そして本作など、実在人物を主人公とする里中の一連の歴史物の端緒となったもので、古代エジプト史と恋愛ドラマと一人の女性の生き方とが、わかりやすい背景説明と安定したデッサンをもとに、見事にミックスされた傑作である。
「それは強いからいえるお言葉ですわ」(シーザーとの出会いのシーン)
「あなたのために竪琴を弾いたり・・・」(アントニウスとの死別シーン)
いまだにいくつかのネームを覚えている。
「あなたのために竪琴を弾いたり・・・」(アントニウスとの死別シーン)
いまだにいくつかのネームを覚えている。
『クレオパトラ』(集英社)
本作の主人公は、飛鳥・奈良時代の皇族で、藤原一族の策略にかかって悲劇の最期を遂げた長屋王である。
日本史の教科書では「長屋王の変」として2~3行触れられる程度なので、ソルティはどういう人物かよく知らなかった。
奈良大学通信教育のスクーリングで平城宮に行ったとき、宮の東南角に隣接する6万平方メートルに及ぶ広大な屋敷跡――東京ドームの1.5倍。現在その大半は大規模商業施設「ミ・ナーラ」になっている――のそばをバスで通過し、「平城宮いざない館」では長屋王の屋敷跡から発見された木簡を見た。
教科書上の活字だけの人物が、一気に、自分らと同じ、この日本の地に生まれ、日本の特産物を食べ、あおによし奈良の都の空気を吸った、生きた人間として身近に感じられた。
「どんな男だったんだろう?」
楽しく手っ取り早く知るには漫画が一番。
楽しく手っ取り早く知るには漫画が一番。
画風は昔と変わっていない。
わかりやすいコマ割り、しっかりした描線、背景より人物メインの構図。
さすがに女性登場人物の瞳キラキラは抑えられている。
ストーリーテリングは相変わらず上手い。
登場人物が多く、関係が錯綜していて、古代ならではの慣習や価値観に満ちた独特な世界を、わずらわしさを読者に感じさせることなく手際よく説明し、登場人物それぞれの立場や性格や思想を描き分けている。
奈良時代前期の政治と世相をしっかりと考証しつつ、無情で腹黒い権力者に成りきれることができないゆえに藤原一族に敗れていく男の姿を浮かび上がらせている。
長屋王は、出自と才能と伴侶に恵まれた天才だが、あまりに理想が高く真面目過ぎるがゆえに、融通がきかず、周囲となにかとぶつかってしまう。そういう人間として造型されている。
判官びいきの人は、どうしても政争に敗けた人間に同情してしまう。
一方、長屋王は身分の低い僧を笏で打ち据えるような傲慢な人物だったという証言(『日本霊異記』)もある。
乙巳の変(645年)の立役者となった中臣鎌足。その息子の藤原不比等から始まった藤原一族による他氏排斥、および皇族と藤原氏との実権をめぐる綱引き。
その最初の犠牲者が長屋王だったのだろう。
いつの世も、皇室を利用しながら旨い汁を吸う、自称愛国保守はいる。
しかし、この時代の婚姻関係の乱脈ぶりと来たら!
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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