1948年松竹
85分、白黒
原節子主演のこんな素晴らしい映画があったとは!
日本映画には埋もれた宝がいっぱいあるなあ。
令和の新作映画を観るより、昭和の旧作映画のDVDを観る方が、ハズレが少ない。
もっとも、年間で作られる映画の本数が桁違いなので、DVD化されたアタリの旧作映画の背後にはハズレが山とあるわけだが。
タイトルから想像される通り、危険な恋の物語である。
妻子ある青年代議士矢島(佐分利信)と、矢島の恩師の娘である孝子(原節子)の“いけない”恋がテーマ。
矢島の妻とき子(杉村春子)は肺病のため湘南の病院で療養中、長いこと家を留守にしている。
矢島は2人の子供の世話を身寄りのいない孝子に依頼する。
若く健康な男女が一つ屋根の下に住む。
男はハンサムな正義漢。
その妻は療養中で不在。
女はとてつもない美貌で、優しくてよく気がつく働き者。
これで何も起きないほうが不思議である。
いや、むしろ、「2人ともはじめからその気があった」と勘繰るのが令和時代の我々であろう。
昭和20年代のモラルの高さよ!
DVDパッケージの解説には、「妻子ある男の誘惑に、悩みながらも次第に惹かれる女学生」とあるが、ソルティの個人的印象では、誘惑者はむしろ女学生の孝子のほうであって、矢島は孝子の魔力にとらわれて抗えなくなった犠牲者といった感じ。
それくらい、公開時28歳の原節子の美貌と色気は凄まじい。
清純なる小悪魔というか・・・。
この時代(戦後~50年代)の日本映画の質の高さは言うまでもない。
吉村公三郎はやはり原節子主演『安城家の舞踏会』の監督として知られている。
本作でも演出の見事さ、とくにモンタージュの上手さに唸らされた。
映画におけるモンタージュとは、複数のショットを編集で組み合わせることで、単独のカットだけでは生まれない意味や感情、時間経過を観客に想像させる映像編集技法です。(AIによる回答)
たとえば、孝子の若さと健康と美貌をうらやむ肺病の妻(杉村春子)の嫉妬と募りくる(夫の浮気への)不安を表現するのに、打ち寄せる波のショットを差し込んだり、矢島への抑えられない思いに揺れ動く孝子の心模様を激しい川の流れに重ねたり、葛藤に苦しむ2人の心情を窓外の風に託したり。
波や雨や風や光などの自然が、ドラマの登場人物たちの感情を比喩的に映し出すのに効果的に使われている。
基本的なモンタージュではあるけれど、こういった丁寧な仕事こそが日本映画の黄金期を支えていたのだと実感する。
小津安二郎の紀子3部作に見るように、原節子と杉村春子は意外に相性が良くて、互いが互いの良さを引き出している感がある。
本作の2年前には黒澤明監督『わが青春に悔なし』(1946)で共演し、息のあったところを見せていた。
本作ではなんと、疑心暗鬼におそわれたとき子(杉村)が病院を抜け出して家に戻り、夫と孝子(原)の濡れ場をおさえ、思いあまって原節子をビンタする!という、驚きのシーンがある。
杉村の登場シーンのおっかなさときたら!
ホラー映画よりよっぽど怖い。
原と杉村のファンは絶対に見逃せない怪場面である。
最後はハッピーエンド(妻が死ぬ)。
不倫の関係が本妻を追いやったという結末は、自由な戦後ならではのものだろう。
1939年『暖流』とのギャップを感じる。
戦後わずか3年でダンスホールが盛況というのにも驚いた。
アヴァンチュールを求める若者の心は、何より早く復興したのだ。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損



