2010年アメリカ映画。

原題はVanishing on 7th Street (七番街での消失)

人間が根源的に恐怖する闇(ダークサイド)との闘いを描いたホラーサスペンス。
「黒の怨(Darkness Fall)」、「ダークネス(Darkness)」、古くは「フォッグ」、アメリカにはこの手のものが多い。
初期開拓時代のピューリタンとして、インディアンの棲む夜の森を恐れる民族的記憶のゆえんだろうか。おのれの無意識の暗い側面に蓋をしたがる民族性ゆえんだろうか。夜の森に妖怪を住まわせる日本人とは本質的に異なる。もっとも典型的な作品に、コンラッドの「闇の奥(Heart of Darkness)」がある。映画「地獄の黙示録」の原作である。

この映画の肝の一つは、主役のヘイデン・クリステンセンが若き頃のダースベイダーであること。
であればこそ、最後まで「ダークサイド」に引き込まれまいと奮闘する彼の姿に、別の意味が付与されて、見方が膨らむ。ご丁寧にも今回の役名は「ルーク」ときてる。スター・ウォーズのときと同様、最後にはダークサイドに取り込まれてしまうのであるが。

もう一つの肝は、これが1590年エリザベス一世女王の時世に実際にあった「ロアノーク島住民消失事件」を背景に匂わせているところ。「匂わせている」ってところがポイントである。

北アメリカの東海岸にあるロアノーク島を植民地化したイギリス人達が、いったん島を去って帰国し、3年後に戻ってみたら、住民118名が姿を消していた。戦闘の形跡も無かった。手がかりとして残されたのは、砦の柱に彫られた「クロアトアン(CROATOAN)」という文字のみであった。

という事件である。

映画の中で、この事件とのつながりを匂わせているのは2点。一つは、周囲の人々が服や靴だけ残して消失する中、なぜだか生き残った5人の登場人物うちの1人が、この事件のことを前から知っていて、他のメンバーに語るシーンである。もう一点は、ダークサイドの襲撃から車で逃げるルーク=クリステンセンが、目の前の陸橋に大きくペンキで書かれた「CROATOAN」という文字を見るシーンである。

この2点が無ければ、ロアノーク事件との連関性はない。
逆に言うと、この2点によってのみ、ロアノーク事件、あるいは(ロアノーク事件を知らなければ)ハーメルンの笛吹きやメアリ・セレスト号事件など同種の集団消失事件に人々が付与してきた様々なイメージ~不思議、不吉、神秘、恐怖、誘拐、陰謀、侵略、異次元、アブダクション、神隠し、解けない謎~を、映画に重ね合わせ、重層的な意味を持たせているのである。
それは、このストーリーからロアノーク色を抜いて考えてみれば、よく分かる。
ただの、わけのわからない、陳腐な、闇に引き込まれる人間の話である。

襲ってくるものの正体は何か、なぜ襲ってくるのか、捕まったらどうなるのか。
通常なら最後には解明されるこれらの問いに対する回答を、意図的に拒絶し、すでに世間的に十分な意味を獲得しているスター・ウォーズやロアノークの物語のイメージやエッセンスをお借りして、話を膨らませる。

ある意味、利口な、節約主義な映画である。

正体がはっきり分かってしまったら、怪談もホラーもダークサイドも魅力が失せるのである。




評価:C-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!