2006年イギリス、アメリカ共同制作。

 観終わって、「大人の映画、大人の恋愛」と真っ先に感じるのである。
 欧米、とくにヨーロッパの映画を観て、そう思うことは多い。
 疑問なのは、イギリスやアメリカの鑑賞者たちも同じように感じるのだろうか。つまり、イギリスやアメリカの大人たちも、この映画を見て「大人の映画、大人の恋愛」とあえて思うのであろうか?

 日本人の大人である自分がこの映画を観て、「大人である」が他の何より印象として残るのは、日本の映画に出てくる大人たちや大人の男女の恋愛描写と無意識のうちに比べているからであり、その結果、日本のそれはまるっきり「子供のように」思えるからである。

 では、いったい自分は何を持って「大人」としているのだろう?
 
 大人とは個人として自立(自律)していることであり、大人の関係とは自立(自律)した個人と個人とが、それぞれの「個」をぶつけあいながら、活かしあいながら、支えあいながら、共生していく方法を見つけることである。

 おそらく、自分自身のこういった考えは、近代西洋的価値観にすっかり洗脳されている証拠であろう。
 別に、前近代(たとえば江戸時代)の日本の「大人」像や、イスラム社会の「大人」像(どんなものなのかよくわからないが)を、「大人」としてもいいのだから。

 ともあれ。
 このような「自立した個=大人」としての概念及び実質があるからこそ、この映画のタイトルの意味が生きてくるのであろう。
 Breaking and Entering(壊すこと、関わること)とは、文字通り、ボスニア難民として母親と二人でイギリスにやって来た少年ミロが、主人公ウィル(ジュード・ロウ)の事務所のガラスを破って(Break)、中に押し入る(enter)こと、すなわち強盗を働くことを意味している。と同時に、「個人」という厚い堅い壁に囲われて、互いのなまの心に触れあえなくなっている夫婦や親子や恋人たちの状況について、ミンゲラ監督が最期に送ったメッセージなのであろう。そう、ミンゲラ監督はこの映画を撮った2年後に54才の若さでガンで亡くなったのである。
 
 自らの殻を破れ、相手と関わることを避けるな。
 さもなくば、孤独からの解放もなく、愛もなく、新生もない。

 力強いメッセージである。
 しかるに、2005年にオスカーを取った『クラッシュ』(ポール・ハギス監督)が見事に表現したように、現代人にとって相手と深く関われる手段が、「セックスか暴力か事故」に限られてしまっているところが何とも皮肉というか悲劇的なのである。
 
 ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペンをはじめ、役者も脚本もすばらしく、見応えがある。




評価: B-

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!