1955年アメリカ映画。

 CGも3Dもデジタル合成もない時代に、大がかりなセットと大人数のエキストラと莫大な制作費を使い「ハリウッドの威信をかけて」作られた、いわゆるスペクタクル史劇。
 「アメリカは偉大だった。元気だった。単純だった。」としみじみ思う。
 剣闘シーンも戦闘シーンも見ごたえたっぷり、おなかいっぱいになれる映画。 
 
 アメリカ人はなぜかこういうスペクタクル史劇が好きである。
 よく知られていてレンタルショップで見かけるものだけ挙げても、

  57  十戒 (セシル・B・デミル)
  59  ベン・ハー (ウィリアム・ワイラー)
  60  スパルタカス (スタンリー・キューブリック)
  63  クレオパトラ (ジョゼフ・L・マンキーウィッツ)
  65  偉大な生涯の物語 (ジョージ・スティーブンス)
  66  天地創造 (ジョン・ヒューストン)

 ハリウッド黄金期(30~40年代)が終わった後に、こういった大作が続々と出てくるのも興味深いけれど、アメリカ人のスペクタクル史劇好きは、『グラディエーター』(2000年)、『アレキサンダー』(2004年)、『トロイ』(2004年)と今も健在である。
 考えてみると、これは不思議である。

 フランス人が『ナポレオン』を撮ったり、ロシア人が『イワン雷帝』を撮ったり、イギリス人が『エリザベス』を撮ったり、イタリア人が『カリギュラ』を撮ったり、日本人が『日本誕生』を撮るのは不思議ではない。自らのアイデンティティのルーツであるし、観客にとってもどこかで一度は耳にしたことがある親しみやすい物語であり、良くも悪くも祖国のヒーロorヒロインであるからだ。
 しかるに、なぜアメリカ人が、エジプト人が撮るべきクレオパトラを撮るのだろう? ギリシヤ人が撮るべきアレキサンダーを撮るのだろう?
 モーゼやキリストについてならまだ分からなくもない。旧約聖書も新約聖書もキリスト教という点では、アメリカ人の心の拠り所であり、ルーツと言えるから。
 たとえ、莫大な制作費があろうとも、日本人監督が日本の俳優を使ってクレオパトラを撮るなど、まず考えられない。昔、コミックが大ヒットした「ベルサイユのバラ」が映画化されたが、さすがに俳優は外国人を使っていた。そもそもこれは、漫画のヒットの二匹目のドジョウをねらっての映画化なので別物と考えるべきだ。史劇と言うより恋愛ドラマだし、あれは・・・。

 アメリカ人の史劇好き。
 それは、アメリカの歴史の浅さコンプレックスの裏返しなのかもしれない。
 国民に共通した「神話」を持たない民族の羨望なのかもれない。

 アメリカという国が生まれたとき、日本は江戸時代中頃である。天皇によって体現された神話と滔々たる歴史とを持った「アイデンティティのできあがった民族」だったのである。
 一方、アメリカはどうか。
 キリスト教徒(特にプロテスタント)であるというだけではアイデンティティとして弱い。なぜなら、キリスト教国など他にもたくさんあるから。プラスアルファとしてアメリカ人が基盤として誇れるものは、つまるところ、独立宣言と合衆国憲法と奴隷解放宣言にほかならない。すなわち、「自由」「正義」「平等」「権利」。それ以外に求めるとしたら、「金」と「武力」になる。
 いずれにせよ、「平和」がない。
 そのアメリカが日本に「平和憲法」を押しつけた(もたらした)のだから、不思議な巡り合わせである。

 話がそれた。

 トロイのヘレンは歴史上1,2をあらそう美女である。
 スパルタの王であるメネラオスを捨てて、トロイの王子パリスと出奔。怒ったメネラオスはギリシャ全土から「千艘の船を引き連れて」トロイを攻撃、滅亡に追いやった。いわゆる、トロイ戦争である。
 国家を揺るがすほどの美女を「傾城」と言うが、まさに、クレオパトラ、楊貴妃と並ぶ傾城である。
 それだけのことを巻き起こしたヘレンの美貌が尋常であるわけがない。ただ美しいだけでなく、見た者を虜にする魔性の輝きを放っていたであろう。

 ヘレン役のロッサナ・ポデスタはまぎれもなく美女である。が、男を狂わせ国の命運を左右するだけの魔力は感じられない。
 もっとも、この映画ではヘレンは悪女ではなく、平和と愛をもとめる賢い女性として設定されていて、パリスとの駆け落ちも彼女の本意でなく状況的に止む終えなかったものと描かれている。だから、作品上では十分なヘレン役ではある。
 だが、やはり個人的には傾城のヘレンこそ観たかった。その魅力に酔いたかった。
 としたら、やはり、この人しかいない。

 グレタ・ガルボ。

 彼女がテクニカラーに間に合わなかったことが本当に残念である。
 


評価: B+

参考: 

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 

「東京物語」 「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。

「風と共に去りぬ」 「未来世紀ブラジル」 「シャイニング」 「未知との遭遇」 「父、帰る」 「フィールド・オブ・ドリームス」 「ベニスに死す」 「ザ・セル」 「スティング」 「フライング・ハイ」 「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」 「フィアレス」 ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。

「アザーズ」 「ポルターガイスト」 「コンタクト」 「ギャラクシークエスト」 「白いカラス」 「アメリカン・ビューティー」 「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。

「グラディエーター」 「ハムナプトラ」 「マトリックス」 「アウトブレイク」 「タイタニック」 「アイデンティティ」 「CUBU」 「ボーイズ・ドント・クライ」 チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)

「アルマゲドン」 「ニューシネマパラダイス」 「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ~。不満が残る。

「お葬式」 「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった

「レオン」 「パッション」 「マディソン郡の橋」 「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!